2012 Fiscal Year Research-status Report
哲学と日本思想史研究ー文献学・解釈学の方法的摂取を中心にー
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23520034
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Research Institution | Seigakuin University |
Principal Investigator |
清水 正之 聖学院大学, 人文学部, 教授 (60162715)
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Keywords | 日本思想史方法論 / 和辻哲郎 / 土田杏村 / ドイツ文献学 / 解釈学 / 社会的存在論 / 東アジア哲学史 / 倫理学 |
Research Abstract |
初年度の知見をもとにその欠を補う調査をつづけ、一方、総合的なまとめに着手した。文献学・解釈学受容の典型である和辻倫理学と倫理思想史との関係を、その原理性の側から解く従来の研究の総覧をこころみ、その成果を比較思想学会での発表、論文等で、公表した。また、思想史研究の展開において、唯物論・マルクス主義的立場は、いわば「社会的存在論」ともいうべき傾向を示すが、その影響関係を、土田杏村の社会哲学の方向、政策論、経済論などの哲学的原理的志向と彼の精神史の構図との連関に集約して考察し、方法論的な視点からの唯物論、和辻倫理学との対抗関係を明らかにした。ドイツ文献学、解釈学の受容についても、引き続き、調査検討をつづけ、次年度に考察すべき論点を明らかにして、主要な課題として明確化できたと考える。 以上の考察を基盤にして、哲学的原理と思想史研究の解釈学的な手法との不可分な関係をめぐる思索,方法、思想史像の構築の歴史を、あらためて近代日本の哲学史・倫理学史の一表象として、全体的なかにどう配置するかの手がかりをえられるとともに、さらに考察を深めた。 日本思想史の方法的考察は、近代の哲学的倫理学的方法の摂取という問題にとどまらない。思想史的方法は、自らの伝統との対峙をともなっていた。その点でも中国での国際学会、台湾での発表、討論を通じて、さらに、その考察を、東アジアでの、伝統思想と近代哲学、倫理学のありかたを問うという当初の予定通り、考察をつづけ成果を得たと考える。 本研究は近代日本での哲学的分科としての思想史研究を主たる対象としてきたが、戦後の思想史研究など、それ以降の思想史的営みのなかで生起した問題、とくに1972年の丸山眞男論文等にむけられた(「歴史の古層」論文批判等 )、相対主義・脱構築の側からの批判への、あらたな思想史像、思想史方法論の検討などもほぼ視野に入れることができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、哲学的分科として考えられた、近代に展開した日本思想史研究の哲学的方法を対象にして、その方法論的立場を総覧しつつ、その思想史像にも立ち入ってその可能性と限界を見極め、今後の思想史研究の可能性を考察することを目的としてきた。とくに思想史的方法は、ドイツ文献学から解釈学の摂取と展開してきたが、その流れの内実に着目すると、そこには共通点と差異が存在する。その点をあきらかにすることは、ほぼ達成できたと考える。 とくに和辻の倫理思想史像に顕著である文献学と解釈学の関連という問題について、和辻とは異なる思想史像を描いた土田杏村、あるいは唯物論的方法をとる思想史研究に於いて、文献学から解釈学の摂取の道程と、そこに横たわる困難さをめぐる哲学的方法の思索が、次第に社会存在論へと形をとり、思想史研究の文献学的傾向を、哲学的に越えようとする傾向に至りつくことを指摘できたことは、大きな成果であると考える。他方、マルクス主義、唯物論的立場の思想史研究との相互関係、および両者に影響を与えたディルタイ野解釈学の摂取と影響については、なお、考察の余地を残した点は、今後の課題として残っていると考える。 また、東アジアの近代哲学史およびそのなかでの思想史方法論野考察も、なお上記の問題をさらに精緻に考察してからの課題といてなお残っている。戦後の新たな思想史的方法論、思想史像の検討も最終年度に向け、残した課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主要な目的である、哲学的分科として展開された近代の日本思想史研究の哲学的方法の考察の流れとパターンについて、その総覧によって課題と可能性をあきらかにするという考察をさらに深化させる。それらの思想史的方法は、ドイツ文献学から解釈学の摂取へと展開してきたが、思想史研究の共通点と差異について、ほぼ明らかにした。今後は、達成点にたち、和辻の倫理思想史、和辻とは異なる思想史像を描いた土田杏村の方法論的、哲学的差異を、それらの共同体論との関係から、考察を深めると共に、さらに、近似的関係にもあった、マルクス主義的・唯物論的方法の思想史研究方法論、思想史像(永田広志、あるいは三枝博音)の展開の考察を深め、文献学から解釈学の摂取への道程で、その哲学的方法が、次第に社会存在論へと形をとるなかで、思想史研究の文献学的傾向を、哲学的に越えようとする傾向が生まれた意義を、ディルタイの歴史主義的立場を批判する三宅剛一の哲学的立場など、思想史研究の外部の哲学的立場等と連関させながら、考察を深めたい。それは特に、ディルタイ解釈学の摂取と批判という、和辻以降の、土田杏村、永田、三枝をとおしての、文献学、解釈学の摂取と批判という哲学的考察の意義を、検討することになろう。 日本の思想史研究の展開、また方法論的考察は、伝統的思想と近代哲学との接合という日本及び、東アジアの近代哲学史のなかでの営みであった。上記の検討によって、また、中国等での、文献学、解釈学への最近の関心にも着目して、それとの連関の中で、近代日本の思想史研究の意義と可能性を最終年度では、もう一つの課題として考察していく。 以上の考察は、単なる過去の思想史像、方法論の歴史的検討にとどまらず、現代の新たな思想史的方法論、思想史像、あるいは広義の哲学史の構築にも連なるものでもある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費としては、日本思想史研究とくにマルクス主義的・唯物論的方法に関わる関係書籍・資料、思想史研究に関わる近代日本の哲学史、とくにドイツ文献学・解釈学に関わる未開拓書籍・資料、マルクス主義的・唯物論的立場の思想史研究とそれにまつわる論争に関する資料・書籍の収集に関わるものが主となる。またドイツ文献学、解釈学の思想史に関わる文献も若干入手する。研究成果のデータベース入力などの補助作業にパソコン(Dell Inspiron17R 96980円)購入を予定している。 旅費は、芳賀矢一、村岡典嗣等の思想史研究が、ドイツで収集、参観した資料をさらに調査することに使用するとともに、文献学とディルタイ解釈学の関係を中心に最新の研究・資料等を調査したいと考えている。また国内の資料調査(天理図書館)を予定している。 また、まとまった調査資料、データを、データベース化することについて、若干の整理・入力補助者の人件費を予定している。 なお研究成果については勤務大学のデータベースで公開すると共に、冊子化するが、その費用はその他として見込んでいる。
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Research Products
(8 results)