2011 Fiscal Year Research-status Report
イギリス道徳感覚学説とヒューム道徳哲学の成立:自然から規範へ
Project/Area Number |
23520037
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 准教授 (10298309)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | ヒューム / 道徳感覚学説 / 自然と規範 / 人間本性 / シャフツベリ / トマス・ホッブズ / 一般的観点 / イギリス近代哲学 |
Research Abstract |
平成23年度は本研究の初年度であったが、本研究にとって極めて重要な意義のある成果を達成することができた。それは、ヒュームの主著のA Treatise of human Nature (1739-40) の道徳哲学的意義を知識論、情念論、道徳論の三巻を統一的に解釈することによって明確にし、それを『ヒュームの一般的観点:人間に固有の自然と道徳』(勁草書房、二〇一二年)と題する単著書として出版したことである。本書の出版によって、トマス・ホッブズ、ジョン・ロック、アダム・スミスとヒュームの比較研究を行いつつ、ヒュームの道徳論が知識論に基礎を置くことを明確に主張することができた。ヒュームが主著を著した目的は道徳の解明であることは周知に事実とされてきたが、しかし具体的にどのようなしかたで知識論が道徳論とつながるのかについての明確な解釈はこれまで世界的にも行われていない。それゆえ私の著書は今後のヒューム研究に新しい視点を提示するものとなると思われる。 また同書はヒューム道徳論の特徴が、道徳を人間に固有な自然としての物質的世界の認識との連続性においてとらえた点にあることを明らかにしている。本研究課題においてヒュームとヒューム以前のイギリス道徳感覚学派の関連を探る上で、その特徴はヒュームによる先行哲学への批判意識を探求するための手がかりともなる。こうしたヒューム解釈の基盤に基づいて、私はシャフツベリのテキストを読解し、シャフツベリの自然概念が自然学者のそれと異なり、人間性に基づき物質と道徳の両者を包摂する概念であるという解釈を提示する見通しを得ることができた。自然と道徳との関連は、イギリス道徳感覚学派の進展をもたらす理論的基軸であると言える。今年度以降この見込みをヒュームが直接参照した道徳感情学説と合理主義道徳論のテキストに即して解明する作業に取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒュームの道徳哲学について本研究の基盤となる哲学的立場を明確にする単著を出版することができたことは当初の想定以上の進展であった。ただしその分、初年度に行う予定であったシャフツベリとヒュームの関係の解明は次年度に行うことになったため、それを勘案しておおむね順調と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年はシャフツベリの大著Characteristics of Men, Manners, Opinions, Times (1711)を解読し、enthusiasm の概念と人間本性概念との関連を比較する。シャフツベリが、人間本性の感性的側面をどの程度自覚的に道徳哲学の基礎として用いているかを吟味し、ヒュームへの影響関係を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降は、シャフツベリとジョゼフ・バトラーの関連、道徳感覚学説とイギリス合理主義道徳論についての研究書、必要備品を購入する。また研究発表のための研究旅費、関連領域の研究者を招いての講演会もしくはシンポジウムを開催するための経費として使用する予定である。
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