2012 Fiscal Year Research-status Report
イギリス道徳感覚学説とヒューム道徳哲学の成立:自然から規範へ
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23520037
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
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Keywords | デーヴィッド・ヒューム / 自由 / 道徳感覚 / シャフツベリ / トマス・ホッブズ / サムエル・クラーク / 必然 / イギリス理想主義 |
Research Abstract |
ヒューム道徳哲学成立史を考察する上での重要概念である「一般的観点」、「自然」、「自由」を、ヒューム哲学の成立に重要な影響を与えたトマス・ホッブズ、ジョン・ブラムホール、ジョン・ロック、サムエル・クラーク、シャフツベリとの比較を通して研究した。ヒュームの哲学体系全体においてホッブズ、ロックの「理性」に代わる概念として「一般的観点」の概念を提示し、その背景に道徳感覚学説が存在することをシャフツベリのテキストの読解を通して確証する試みを行った。 ヒュームの必然性概念が同時に自由論として構想されていることに着目しつつ、必然性の対概念としての「自由」が道徳的評価を可能にする概念であり、その道徳評価は道徳感覚に基づいてなされることを示した。ヒュームは自由と必然をめぐって従来「必然主義者」もしくは「両立主義者」とみなされてきた。必然性と区別される意味での自由の因果性の意義をめぐって従来問題にされてきた解釈上の難題を、自由を認識する主体の立場の相違として整理し、道徳感覚による自由と必然の統一という形で解決する趣旨の論文を発表した。 隣接分野の専門家からの専門知識の提供として、横浜国立大学経済学部有江大介教授にフランシス・ハチソンのヒュームへの影響について講演を依頼し、講演に対する特定質問においてヒュームとハチソンの違いが道徳感覚を本性に結び付けるかどうかにあることを議論し、ヒュームの自然概念がハチソンへの批判から成立したことを明確にすることができた。 長崎大学姫野順一教授、横浜国立大学深貝保則教授による国際ワークショップ「功利主義と幸福の観念」(2013年3月16日、横浜国立大学横浜ランドマークキャンパス)でヒュームを批判したトマス・ヒル・グリーンに対する批判を英語で口頭発表し、ヒューム自然主義の意義を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒューム道徳哲学の成立に果たすイギリス道徳感覚学説の役割について、当初はシャフツベリ、ハチソンとの関係に限定し研究を進めた。ヒュームにおける道徳感覚学説の具体的な受容がヒューム独自の「自由」概念にあることを、トマス・ホッブズ、ジョン・ロック、サムエル・クラーク、ジョン・ブラムホールとの比較を通して明確にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒューム道徳哲学の成立に果たす自然宗教批判の意義を、「人間本性論」、「自然宗教に関する対話」との比較によって考察したい。またヒューム道徳哲学の受容として成立したイギリス理想主義との関連にも注目しヒュームの特徴を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ヒューム宗教論、ヒューム以前のイギリス合理主義、ヒューム批判としてのイギリス理想主義、功利主義についての図書の購入、隣接分野の専門家を招いてのシンポジウムの開催、学会発表に用いる予定である。海外画会に参加する予定として計上した予算(およそ25万円)は、研究最終年度に在外研究を行う予定となったため、使用年度を変更しその際に使用する。
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