2013 Fiscal Year Research-status Report
イギリス道徳感覚学説とヒューム道徳哲学の成立:自然から規範へ
Project/Area Number |
23520037
|
Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
|
Keywords | 西洋哲学 / 倫理学 / イギリス哲学 / ヒューム / 道徳感情学説 / ハチソン / シャフツベリ / グリーン |
Research Abstract |
ヒューム道徳哲学全般については、日本倫理学会第64回大会において主題別同義「ヒューム:言語、動機、一般的観点」の実施責任者として三名の報告者とともにシンポジウムを行いヒューム倫理学の現代的意義を明確にすることができた。シンポジウムに先立ってはパネリストとともに研究会を開催した。 9月5-6日南山大学において開催された「ヒューム研究学会」第24回例会において、拙書『ヒュームの一般的観点』についての合評会の回答者として参加しヒューム研究者との議論を行った。 ヒューム哲学に最も重要な影響を及ぼしたとみなされるイギリス道徳感情学説の検討を行った。とりわけ本邦においても世界的にも研究が比較的手薄なシャフツベリのCharacteristics of Men, Manners, Opinions, Timesを読解するとともに多数の研究書並びに研究論文を読解した。特にシャフツベリ道徳哲学の最初の重要な論攷である上掲書所収の“An inquiry concerning virtue or merit”を精密に分析し、ヒュームへの影響を精査し、ヒューム道徳論に大きな影響を与えている「道徳の解剖学」の概念を発見することができた。この成果は2014年3月1日国際基督教大学において開催された「ICU哲学研究会」第7回研究会において「イギリス道徳感覚学説における自然概念:シャフツベリからヒュームへ」と題する研究発表を行った。 ヒューム著者集の最初の編集者であり、またヒュームの批判者としてヒューム解釈上大きな影響を及ぼしたTHグリーンの古典『倫理学序説』(1883)の翻訳を他の研究者と協力して進めている。 隣接分野の専門家からの専門知識の提供として、慶應義塾大学経済学部坂本達哉教授にフランシス・ハチソンについての講演を依頼し、多数の研究者とハチソンとヒュームの関係についての理解を深めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況について昨年は学会、研究会での3回の報告を通してヒュームの道徳哲学が道徳感情学説に基づくものであることを示すことができた。また従来本邦においても、また世界的にも研究が手薄であったシャフツベリとヒュームの関係について、ヒュームが道徳の解剖学というキー・コンセプトを通してハチソンを批判する背景をシャフツベリに見出すことができた。またヒュームの道徳論において最も重要であると思われる道徳と自然を一貫した方法によって究明しようとする着想もシャフツベリに見いだされることを明確にするテキスト上のエビデンスを特定したことも重要な研究上の成果であった。社会思想史の分野において世界のヒュームおよび道徳感覚学説の研究をリードする慶應義塾大学経済学部の坂本達哉教授の講演会を開催し、ハチソンのヒュームに対する影響について理解を深めることができたことも重要な成果であった。またその講演会には多くの関連分野からの研究者の参加を得ることができ、この点でも本邦におけるイギリス道徳哲学研究への貢献となった。今年度と来年度で本研究課題は終了となるが、これまでの研究成果は国内外での学会報告と研究論文の形でまとめる見込みが立っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行に後二年を残すのみとなった。今年度は、イギリス道徳哲学とヒューム道徳哲学の成立の研究の重要な課題に取り組む予定である。これまでの研究において明らかにできたヒュームとシャフツベリの重要な結びつきを、ジョセフ・バトラーおよびフランシス・ハチソンとの対比においてさらに綿密に考証することである。特に従来ヒュームの道徳感覚学説について、シャフツベリよりもハチソンとの関係が強調されてきた通説を再吟味したい。またバトラーの人間本性についての学説、とりわけその良心論と道徳感覚との関連を調べ、シャフツベリからヒュームへの継承関係にどのような影響があったかを考察する予定である。本年度は『スピノザ協会』からヒュームとスピノザについての講演を依頼されており、それを17世紀思想とヒューム哲学との関係を論じる機会としたい。また年度の終盤にはプリンストン神学大学からスコットランド哲学研究センター所長のゴルドン・グラハム教授を招聘し国際基督教大学、イギリス哲学会、日本ピューリタニズム学会など関連学会にも呼びかけ講演会、研究会、シンポジウムなどを企画している。こうしたヒューム哲学、イギリス道徳哲学、1-18世紀ヨーロッパ思想の重層的な学術的交流の文脈において本研究の進展を目指している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度イギリス道徳哲学関連の図書費に使用する予定であった研究費の一部を、今年度の増加する見込みの学会発表費及び、イギリス道徳感覚学説研究の専門家で、ヒュームおよびスコットランド哲学の世界的権威であるプリンストン神学大学スコットランド哲学所長のProf. Gordon Graham氏招聘のために使用する目的で予定変更したため。 2015年1月14日から22日までの予定で国際基督教大学での講演に招聘し、講演会、研究会、シンポジウムなどを行う予定である。それ以外には、図書費、学会参加費、学会費、消耗品などに支出する。
|