2014 Fiscal Year Research-status Report
イギリス道徳感覚学説とヒューム道徳哲学の成立:自然から規範へ
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23520037
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
矢嶋 直規 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10298309)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 近代哲学 / イギリス哲学 / スコットランド啓蒙 / ヒューム / 道徳感覚学説 / 倫理学 / 認識論 / 共感 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度には、2回の招待講演、1本の論文、1回の国内学会でのシンポジウム司会、および海外の著名研究者を招聘しての、4回のシンポジウム及び講演を主催しそのうち2回の講演会においてコメンメーターとして質疑を行うことができた。 招待講演ではヒューム道徳哲学成立史において重要な役割を果たす大陸合理論の哲学、とりわけスピノザとヒュームの関連について講演を行った。スピノザ協会の講演ではヒュームとスピノザが自然主義という根本的な哲学的立場を共有していることを指摘し、ヒュームがスピノザから受けた影響を考察した。一橋大学での講演では想像力の働きに依拠するヒューム哲学がスピノザの第一種認識の議論から大きな影響を得ている可能性が推測されることを、スピノザの「普遍概念」とヒュームの「一般観念(抽象観念)」との比較を通して明らかにした。 米国プリンストン神学大学からゴードン・グレアム(Gordon Graham)教授を招聘し、Ferguson and Hutcheson on Sociability and Hospitality”(国際基督教大学、1月21日)、 “Adam smith as a Scottish Philosopher”(関西学院大学、1月22日)、“Natural Religion and Natural theology in the Scottish Enlightenment”(上智大学、1月24日)、“Hume, Reid, Moral Realism” (国際基督教大学、2015年1月26 日)の4度の英語による講演を通してヒューム哲学の背景をなすスコットランド哲学について質疑し理解を深めることができた。 さらに、英国道徳哲学史上ヒュームの道徳感覚学説に重要な影響を与えたジョセフ・バトラーの主著を詳細に検討しまた、多数の研究文献を検討することによりヒューム哲学成立史における重層的な構造を新たに確証することができた。この主題を2015年度に更に深く考察し発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度に講演と論文を通してヒューム以前のロックやバークリにも見られない連合による概念の一般性の形成の理論がスピノザの合理論に源泉を持つことを確認しえたことはヒューム道徳哲学の成立を跡付けるための重要な論点となると思われる。連合原理が認識論と道徳論に共通の基本原理である事を確認することで、道徳感覚学説に対するヒュームの批判の視座を明確にすることができた。認識論においても、道徳論においても、ヒュームは道徳の根拠を出発点としての自我にではなく、観念の最終構成物としての社会全体においている。一昨年度までに解明したシャフツベリを引き継いだヒュームの自然主義と普遍的秩序の理論は、自然の一元論を引き継いでいる点で大陸合理論とイギリス道徳感覚学説を整合的に統一する体系である事を確認することができた。ヒューム哲学成立における大陸合理論とイギリス道徳感覚学説の関係は本課題の重要な主題であった。この成果をさらにヒューム道徳論の特徴につき合わせ、今後バトラーやハチソンの道徳感覚学説との関連を考察することが可能になった。 また昨年の研究の具体的な成果として、自然概念に基づく全体主義的立場において、ヒュームの知覚(印象)が何についてのものであるのかは、ヒューム解釈上の重大問題であるがこの問題に新しい解決の可能性を与えることができた。 さらにスコットランド哲学の権威であるゴードン・グレアム教授から知識の提供を受けることで、ヒューム哲学をスコットランド啓蒙思想における位置づけを一層明確にすることができた。この企画によりヒューム哲学内部における多様な諸相を統一的に考察することができただけでなく、宗教学、社会思想史の研究者たちにヒューム研究の重要性を紹介し、分野間の研究交流の機会を提供することができた。これらの成果はヒューム道徳哲学成立史とともに、ヒューム研究全体への新しい貢献になり得ると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度はこれまでの研究成果を踏まえ、ヒューム道徳哲学成立史における道徳感覚学説の影響をシャフツベリ、バトラー、ハチソンとの関連において考察する予定である。とりわけヒュームが主著『人間本性論』を執筆する際に重視したバトラーの『十五説教集』における「人間本性」の理論および「同情」についての理論をヒュームと比較検討しバトラーにおける人間本性と道徳の関係と、ヒュームにおける人間本性と道徳の関係の並行性を検証する予定である。同時にヒューム自身の哲学的関心の焦点としての宗教哲学をそれらの哲学者との比較研究の焦点の一つとしたい。 また本課題からの発展としてドゥガルド・スチュアートの認識論とトマス・リードの認識論をヒュームに対するリアクションとして考察し、ヒューム哲学の独自性を明確にする。この作業はヒュームと同時代の哲学者によるヒューム理解を明らかにする作業であると当時にヒュームが同時代の哲学に対して持っていた批判をも浮き彫りにする作業となる。隣接分野の研究者との研究会を通じて同時代におけるヒューム哲学の受容をより包括的に行うために思想史的観点の考察も重視したい。 ヒュームについての招待講演を行う予定の他、国内の学会もしくは講演会での発表を行う。海外著名研究者の招聘の交渉を始めている。予算は学会への参加、関連する文献の購入、また海外からの著名研究者の招聘を予定している。
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Causes of Carryover |
次年度は最終年度であることから、海外での学会発表が複数予定されており、そのため出張旅費を温存することとしたもの。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のとおり、次年度予算と合わせて海外出張旅費等に充当する。
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