2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520043
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
内田 浩明 大阪工業大学, 知的財産学部, 准教授 (90440932)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 哲学 / カント / スピノザ主義 / 『オプス・ポストゥムム』 |
Research Abstract |
本研究の目的は、カントの『オプス・ポストゥムム』の思想のうち、とりわけ最晩年に書かれた草稿群の思想を、他の哲学者・思想家との関係や時代背景などを加味しながら明らかにすることにある。当年度は、「研究計画」通りに、スピノザ(正確にはスピノザ主義)との関係について研究を行った。成果としては「超越論哲学の歴史的背景-カントとスピノザ主義」がある。 『オプス・ポストゥムム』を研究する場合、いわゆる批判期の思想との比較検討が不可欠となる。そこで、まず批判期においてカントがスピノザ(主義)をどのように捉えていたのかを、批判期の著作に加え「講義録」を参照することにより究明した。そのことによって、カントのスピノザ理解が基本的にはヴォルフやバウムガルテン、そしてヤコービなどの当時流布していたスピノザ解釈に多くを負っていること、感性と悟性の二元論に基づきながらもカントのスピノザ批判が実体論を基軸に据えたものであることをまずは明らかにした。 一方、『オプス・ポストゥムム』では一転、スピノザ主義が超越論哲学や超越論的観念論とされ、『エチカ』に倣うようなスタイルで論述を進める箇所さえ見受けられる。こうした背景には、いわゆるスピノザ・ルネサンスという思想的動向に加え、リヒテンベルクの『控え帖』からの影響がある。そこで、報告者は、『オプス・ポストゥムム』でもスピノザ(主義)に対する批判的な言葉が散見されることと『控え帖』の「観念論を論駁することは不可能である」というリヒテンベルクのテーゼに着目し、カントがスピノザ主義の統一的世界観に惹かれつつも、その言及がカント自身の立場、特に「形式的観念論」を鮮明にするためのものであることを明らかにした。 カント哲学との関係からスピノザ主義やリヒテンベルクに関する詳しい論考は、国内では殆どなされておらず、それを解明したことが当年度の研究意義である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究計画」において平成23年度は、スピノザ主義と『オプス・ポストゥムム』との関係を中心に研究を進めるとしておいたが、「研究実施の概要」で述べたように、報告者は、批判期のカントのスピノザ(主義)に関する理解が基本的にはヴォルフやバウムガルテンをはじめ当時流布していた思想に基づいていることを明らかにしたうえで、『オプス・ポストゥムム』の「スピノザ主義」について「汎神論論争」という思想的動向を考慮に入れながら、リヒテンベルクの「観念論」との関係も解明した。このように、『オプス・ポストゥムム』の思想的境位を「研究計画」に沿って究明していることが上記の自己評価の理由である。 また、「研究計画」を立てた当初からシェリングに関しては平成24年度で行うとしていたが、シェリングの初期の著作のうち『オプス・ポストゥムム』と関連する箇所などを或る程度は絞り込んでいる。こうした点も研究が「おおむね順調」であるとする理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度の研究を踏まえ、特にシェリングとの関連を中心に研究を進める。スピノザとリヒテンベルクに比べると、『オプス・ポストゥムム』におけるシェリングへの言及箇所はごく僅かにとどまるが、カントが『オプス・ポストゥムム』においてスピノザ主義について言及する理由の一つとして、シェリングからの影響があるとする解釈が海外では行われている。 そこで、特に平成24年度は、カントが『オプス・ポストゥムム』を執筆していた時期までの初期シェリングとの比較考察を行う。本研究課題の目的は、カントへの影響を実証的に究明することであるため、研究の手法としては、カントの蔵書目録や当時発行された学術誌を丹念に読むことにより、カントがシェリングをどのように捉えたのかを文献的に証示する仕方で研究を遂行する。 なお、先行研究も含めシェリングそのものに関する文献は数多いため、平成24年度内には前年度の基金の残額も使用できる見通しである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文献研究が主体である哲学という学問の性格上、平成24年度も文献購入に多くを充て研究を遂行する。 ただし、18世紀末から19世紀初頭に関する文献を中心に研究を進めるため、なかには購入がきわめて困難な文献や資料もある。その場合には、必要に応じて大学その他の国内の研究機関での閲覧や当該機関から現物貸借を行う。文献を所蔵する機関が国内に無い場合には、海外から現物貸借を行うこともありうる。いずれの場合でも、文献を複写する際には、「著作権法」に抵触しないよう十分に留意しながら複写を行う。 なお、当年度に配分額に対して残額が生じた経緯としては、全体の研究計画を変更することなく、予定より少ない金額で研究を順調に実施することができたからである。基金という形で交付された研究費のメリットを活かしつつ、研究をより充実したものにするためにも、3年の研究期間のうち最も資金を要すると考えられる平成24年度に使用することで対応する。 こうした計画に基づいて実施した研究内容については、国内の学会等での口頭発表や学術誌に投稿し、その成果を積極的に公表する。
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Research Products
(1 results)