2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520043
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
内田 浩明 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (90440932)
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Keywords | 哲学 / カント / 『オプス・ポストゥムム』 / シェリング |
Research Abstract |
当年度は、前年度のカントとスピノザ主義との関係の発展問題として、カントとシェリングとの関連を中心に研究した。『オプス・ポストゥムム』にはスピノザ(主義)と同時にシェリングへの言及も見られる。シェリングに対する直接的言及は『オプス・ポストゥムム』全体で、わずか2箇所に留まるうえ、その文言も曖昧模糊としている。このため、カントがシェリング哲学を肯定したのかどうか、あるいはそもそもいかなる意図で言及するのかについて現在も論争が続いている。 この問題に関して報告者は、カントが直接言及している『超越論的観念論の体系』とその「書評」、さらにシェリングの初期の著作(特に『最近の哲学文献の概観』)を読み込むことで、それらの語法やフレーズ(例えば「自己意識」や「自己定立」)と『オプス・ポストゥムム』のそれとの比較対照を通じて究明した。その結果、1.カントがシェリングの著作を読んでいた可能性が高いと考えられること、ただし2.シェリング(場合によってはフィヒテも含め当時の主流となりつつあった思想)とは異なった立場を主張するために、あえて「自己定立」などの表現を採用しつつ、『オプス・ポストゥムム』の思想を開陳していることを明らかにした。 具体的な成果としては「カント研究会」での口頭発表と『人間存在論』の雑誌論文がある。前者は、シェリングへの言及がスピノザ主義の延長線上にあるため、スピノザ主義の論究が中心となったが、発表での質疑応答を踏まえ、シェリングに関する上述の1と2の点を中心に書き改めたのが後者の論文である。シェリングと『オプス・ポストゥムム』との関係についての研究は国内にはなく、それを文献的に証示した点が研究の意義である。 また、これら以外では、目下『オプス・ポストゥムム』とフィヒテ並びにシェリングとの関係に関する研究論文の翻訳を共訳で行っており、25年度には公表できる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題申請時にシェリングに関しては、当初から2年目で研究を行うという計画を立てていた。これは、カントの蔵書目録にない書物も含め、シェリングの著作や当時の雑誌を子細に検討する作業が必要であったからである。国内未踏の研究テーマであるシェリングとカントの『オプス・ポストゥムム』との関係について、『最近の哲学文献の概観』、『超越論的観念論の体系』、及びその「書評」を中心にカントの『オプス・ポストゥムム』との比較対照を行い、前記の「研究実績の概要」にある主張を雑誌論文で公表した。その意味で、当初の「計画通りに課題を遂行」できており、研究は「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もカントの『オプス・ポストゥムム』の思想的境位を明らかにするべく、当該書でカントが言及している哲学者・思想家との関係を引き続き究明する。最終年度に当たる平成25年度は、当初の研究計画通り、シュルツェ(『エーネジデムス』)とカントの関係を『オプス・ポストゥムム』に即して究明する。エーネジデムスについては、シェリングと異なり言及回数は多い。しかしながら、例えば、「エーネジデムス それを通じて主体が自己自身を客体化するところの感官の客体の観念性の原理」といった具合に、多くの文言がやはり断片的で、それによってカントがどのような思想を表明しようとしたのかは必ずしも分明ではない。 そこで、特に「超越論哲学」ないしは「超越論的観念論」に着目し、『エーネジデムス』を中心にシュルツェとの関係を解明する。研究手法としては、哲学研究という性格上、文献の読解が中心になる。周知の通り、『エーネジデムス』はラインホルトとカント哲学を批判するものであると同時に、フィヒテに衝撃を与え「知識学」の成立の機縁にもなった書物である。そこで、場合によっては、ラインホルトやフィヒテに適宜言及すると共にこれまでの成果を活かしシェリングやスピノザ主義も顧慮しながら『オプス・ポストゥムム』研究を遂行する。 本助成金によって行った研究内容については、学会等での口頭発表や学術誌に投稿し、その成果を積極的に公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
先に書いたとおり、哲学という学問の性格上、文献研究(先行研究含む)が主体となる。そこで、平成25年度も文献購入に多くを充て研究を遂行する。 ただし、18世紀末の文献を中心に研究を進めるため、なかには購入困難な文献や資料もある。その場合には、出張旅費を活用し、国内の大学その他の研究機関へ赴き閲覧し、必要箇所を適宜複写することで研究を着実に進める。文献複写に際しては「著作権法」に抵触しないよう十分に留意しながら複写を行う。 なお、前年度からの繰越金が生じた主な理由は、洋書購入に際して予想以上の円高が続き、当初計画よりも安価に購入することができたためである。研究内容をより充実させるために基金という形を最大限に活かし、平成25年度の文献購入時に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)