2012 Fiscal Year Research-status Report
創造的跳躍としての類比(アナロジー)-隠れた方法概念によるディルタイ哲学の再構築
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23520045
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
山本 幾生 関西大学, 文学部, 教授 (00220450)
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Keywords | 理解 / 類比 / 類型 / 解釈学 / 歴史的社会的現実 / 精神科学 |
Research Abstract |
本研究は、ディルタイ哲学のなかで従来主題化されなかった「類比(アナロジー)」を〈隠れた方法概念〉として捉え、彼の哲学の再構築を目指している。本年度は2年目として、1. 精神科学の基礎づけは歴史的社会的現実の解釈学という形態をとってその学的客観性が求められたこと、2. そしてこの客観性が類比による類似・連関・類型に求められたこと、これらを解明した。1. 2. の内容、そして3. そこから帰結する意義、重要な点は以下の通りである。 1. ディルタイの哲学は初期から晩年に至るまで理解概念に貫かれ、晩年には歴史的社会的現実の理解を目指す解釈学へ展開した。この過程で理解概念は、個から個への類比的理解とともに、個と全体との循環的理解として形成され、かくして精神科学の学的客観性は、解釈学による全体的連関の理解によって、全体的連関への個の妥当性として確保されたのである。 2. しかも、全体的連関の理解は、個から個を理解する類比的な進行によって類型の形成という仕方で遂行すると同時に、この類型から再帰的に個の理解が可能にするのである。こうした類比的な類型形成が、精神科学の基礎づけでは規則的斉一的な構造連関と目的連関として、そして歴史的世界の構築では作用連関と世界観の類型として、さらには歴史的社会的現実の理解に展開したのである。 3. 帰結として、精神科学の学的客観性が全体への個の妥当性に求められたことは、伝統的に普遍妥当性を求めた〈個と普遍〉という枠組への批判という意義を持つ。また、従来のディルタイ解釈に欠けていた重要な論点として、歴史的社会的現実が全体として完結せずに未来に開かれている以上、学的客観性は、ある時代ある社会という一定の範囲内での客観性に留まると同時に、理解もまた完結せずに時代の推移の中で常に誤解に曝され、理解し直され、不断に開かれているという点が帰結するのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は研究期間が3年間であり、それに応じて年度ごとの目標地点を設定し、全体で3段階のステップを踏んで研究全体の目標を 達成する計画を立てている。本年度は、その第2段階の達成を目標にしている。 その3段階とは、1. ディルタイが初期論理学講義(1860/70年代)でJ.S.ミルの帰納法に反対して方法論として類比を提示している点に注目し、類比には帰納・演繹にない〈創造的跳躍〉が含まれ、これが彼の〈表立った方法概念〉である心理学的・解釈学的な追体験・理解を形成していること、2. そしてディルタイは、中期(80/90年代)の精神科学の基礎づけから晩年(1900-11)の歴史的世界の構築において、その学的客観性を、類比が捉える類似・連関・類型に求めていること、3. かくして彼の哲学は、創造的跳躍を含んだ追体験・理解によって、精神科学固有の客観性に基づく歴史的世界の創造的な構築を目指した哲学であること、以上の3段階である。 これに応じて本年度の第2段階で挙げた事項、学的客観性の解明、そしてそれが類比による類型形成に基づいていること、これらの解明は、本研究計画による資料収集、その意味分析、研究者相互の意見交換、研究会の開催等を通して遂行された。とくに研究会の開催は、ディルタイ・テキスト研究会としてWebで公開し、その内容も本研究に即したディルタイのテキスト講読とテキスト研究に的を絞り、2ヶ月に1回程度の開催予定とし、本年度は7回開催(通算第25回目から31回目)し、本研究を推進した。これらによって、上記「研究実績の概要」の1と 2に挙げた内容を達成し、その成果は、本年度の研究成果として、研究会・学会誌論文によって公表した。 以上、3年間の計画に照らして、本年度はその第2段階の目標を達成し、その成果を公表しており、研究はおおむね順調に進展して いる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は資料の収集と意味分析、そして研究者の相互批判(ヒアリング、研究会、等)によって推進しており、今後の研究の推進方策も、本年度と同様に、資料収集、データの蓄積、データの意味分析、研究会の開催、成果の公表と相互批判、研究途上など最新の研究の聴き取り調査、等にあり、この一連のプロセスの遂行によって研究を推進する。 そして、今年度の研究目標は、最終年度として、上記「現在までの達成度」に記している3に、すなわち、「ディルタイの哲学は、創造的跳躍を含んだ追体験・理解によって、精神科学固有の客観性に基づく歴史的世界の創造的な構築を目指した哲学であることの解明」にあるため、資料に関しては、ディルタイ哲学の包括的解釈に関わる資料を中心に収集する。そして、研究会も2ヶ月に1回の割合で開催して相互批判を繰り返し、そのうち夏季休暇中には研究合宿という形態で開催して集中的な討論を行う。これによって、春学期の研究をまとめるとともに、秋学期における3年間の研究全体の総括への目処をつける。そして秋学期になって、本研究全体の成果を研究会参加者による論文集という形態で冊子として作成し、公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(3 results)