2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520046
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
米虫 正巳 関西学院大学, 文学部, 教授 (10283706)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 自然哲学 / 自然 / 生命 / 技術 / 文化 |
Research Abstract |
平成23年度は研究初年度として、まず生命と自然の関係の問題に焦点を当てることにより、本研究課題である「生命・技術・文化を包括する現代的な自然哲学の構築」の可能性を探る取り組みの手始めとした。そのためには20世紀後半のフランスにおける現象学と科学認識論の展開を前提としつつ、それらの生命論と自然論を乗り越えて、自然と人為という対立する両者を含むような「自然」概念を構成しなければならない。特に科学認識論に関してはジルベール・シモンドン、現象学に関してはミシェル・アンリとエマニュエル・レヴィナス、そしてそれらの媒介としてのジル・ドゥルーズらの哲学的成果を継承しつつ、内在的にそれらの限界を抉り出し、こうした批判的継承によって、自然と人為の境界が消失しつつある現在の出来事に対応することのできる自然哲学の実現が目指された。 現象学に即しては、生命をそれぞれ内在と超越として定義するアンリとレヴィナスの哲学を比較対照し、各々に内的な困難が不可避な仕方で含まれていることをそれぞれの側から指摘しつつ、生命を内在か超越かという単純な二者択一で理解することの不可能性を明らかにした。それでは内在でも超越でもない生命をどのように理解すべきなのか。科学認識論に即しては、シモンドンの第一哲学の構想を取り上げ、あらゆるものの出発点とされる「前個体的存在」に接近するためには、まず何よりも生命に定位すべきであるという視点の必要性が判明した。しかしその「前個体的存在」こそが自然と看做される時、そのような自然をいかに理解しなければならないのか。そこで生命の哲学であると同時に、初期から最後まで首尾一貫して自然哲学として構築されてきたドゥルーズの哲学を取り上げ、その自然概念を解明すると共にその限界を明確にすることで、自然と人為、自然と生命を横断的に含み込むような新たな自然概念と自然哲学を構築するための準備を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開始に先立って生じた3.11の震災と原発事故が、本研究課題が問題とする「自然」、「生命」、「技術」に密接に関連することより、当初の研究計画を再考することを迫られた。しかしながら、本研究課題の設定した枠組みにこそ、そのような事態をも包括することのできる現代哲学の可能性を見出すことができると判明した。そのため途中の段階ではやや遅れが生じることが危ぶまれたが、研究開始当初に予想されていた進行状態よりも、最終的にはおおむね順調に進展していると言える段階に到達することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に関してはおおむね順調に進展していると言える段階に到達することができたので、次年度以降もこの状態を継続し、また研究課題にもあるように、生命だけではなく技術と文化に関する研究も同時に並行して押し進め、初年度の成果と統合しつつ全体の研究の推進を加速させることで、最終的な研究課題のすみやかな達成を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も今年度と同様に研究を進めることになるが、今年度の研究対象に加えて、技術と文化という次年度以降の研究対象と、それらと自然との関連も含めて、より総合的な研究の推進が必要となる。技術と文化に関する研究のためには、技術史を初めとする技術論関連の資料調査、及び文化史を含めた人類学関連の資料調査を行なわねばならない。技術論にしても人類学に関しても本研究はフランスでの過去の成果に大きく依拠し、それを批判的に継承することで新たな視野を切り開くという方法を採っているので、次年度も研究課題に関わる資料の調査と、その解読、そしてそこから得られたデータを元にした概念と理論の構築を行なうための、研究旅費及び資料購入費が研究費の使途としては大部分を占めることとなる。特に次年度は夏期と春季の二度にわたるフランスでの研究調査を計画中である。
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