2011 Fiscal Year Research-status Report
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23520052
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
神塚 淑子 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (20126030)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 中国哲学 / 道教 / 霊宝経 / 敦煌写本 / 陸修静 |
Research Abstract |
王{上卜}著『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』(中国社会科学出版社、2004年)「洞玄霊宝部」上に挙げられた古霊宝経の敦煌写本について、資料の収集と整理を行い、道蔵本との比較検討を始めた。「霊宝経目」に名が見える、いわゆる古霊宝経について敦煌写本と道蔵本を比較検討することは、すでに大淵忍爾著『敦煌道経 目録編』(福武書店、1978年)に行われており、いくつかの経典について重要な指摘がなされているが、王{上卜}著『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』では、大淵氏の研究よりも後に明らかになった敦煌写本をも取り上げており、それらを含め、古霊宝経の全般についての敦煌写本と道蔵本の比較調査が必要と思われる。そこで、そのための資料の収集と整理を行い、検討を始めた。 また、敦煌写本は図録などの写真版で見るだけではなく、できる限り現物を閲覧することが重要であるが、今年度は、日本国内に所蔵する道教関係の敦煌写本として、国立国会図書館・京都国立博物館・龍谷大学図書館にそれぞれ所蔵するもの、あわせて十数点を特別閲覧の許可を得て閲覧した。さらに、3月には、『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』の著者であり、長年、道教関係の敦煌写本の研究に従事してこられた王{上卜}氏(中国社会科学院世界宗教研究所道教研究室主任)を日本に招聘し、敦煌道教文献に関するシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、王{上卜}氏のほか、山田俊氏(熊本県立大学)・菊地章太氏(東洋大学)が研究発表を行い、麥谷邦夫氏(京都大学)と山田俊氏および神塚がコメントを述べた。小規模のシンポジウムではあったが、新たな発見もあり、六朝隋唐道教研究における敦煌写本研究の重要性について、改めて深く認識することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、近年になって新たに発見・紹介された写本を含む敦煌道教文献を用いた実証的な研究によって、霊宝経の成立と展開の状況を解明することを目的とする。具体的には、王{上卜}著『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』の「洞玄霊宝部」上下に分類された写本を対象とし、道蔵本との比較を行いながら、仏教の思想・概念の受容の状況を含め、広く中国宗教思想史の視点から考察する。 今年度は研究の初年度であるので、まず「霊宝経目」に名が見える、いわゆる古霊宝経の敦煌写本について資料の収集と整理を行い、検討を始めた。大淵忍爾氏がすでに『敦煌道経 目録編』において道蔵本との比較を行っておられるものについては、それを改めて確認する作業を行った。大淵氏『敦煌道経 目録編』よりも後に発見・紹介された写本については、大淵氏と同様に、道蔵本との対照表を作る必要があると考え、その作業を継続中である。 上欄に記したように、3月に、『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』の著者であり、長年、道教関係の敦煌写本の研究に従事してこられた王{上卜}氏を日本に招聘し、シンポジウムを開催した。小規模なシンポジウムではあったが、日本の道教研究者の協力を得て、一定の成果を挙げることができた。また、王{上卜}氏の来日中に、国立国会図書館・京都国立博物館・龍谷大学図書館に赴き、各館が所蔵する道教関係の写本十数点を閲覧することができ、いくつかの新しい知見も得られた。 以上により、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策として、第一に、今年度に着手した古霊宝経の敦煌写本の調査研究を継続して行う。特に、大淵忍爾『敦煌道経 目録編』に挙がっていない写本について、道蔵本との対照表を作成する作業を完成させ、公表する。 第二に、王{上卜}著『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』の「洞玄霊宝部」に挙げられた写本の中から、いくつかの文献を取り上げて検討する。まず、はじめに『太上元陽経』を取り上げる。この経典の写本は5点あるが、王{上卜}氏によれば、道蔵所収の『太上霊宝元陽妙経』と重なるものがある一方、全く重ならないものもある。道蔵所収の『太上霊宝元陽妙経』については、鎌田茂雄『中国仏教思想史研究』(春秋社、1969年)に、『涅槃経』を改変して書かれた道経であることが指摘されており、神塚も「『海空智蔵経』与『涅槃経』ー唐初道教経典的仏教受容ー」(『日本東方学』第1輯、中華書局、2007年)で論及したことがある。そこで、『海空智蔵経』との相違にも留意しながら、敦煌写本『太上元陽経』について、仏典との関係を詳細に検討し、六朝末から隋代における霊宝経作成の状況について考察する。次に、『慈善孝子報恩成道経』を取り上げ、写本と道蔵本の双方において、孝道を道教がどのように説明しているかという視点から考察を加える。 第三に、国内に所蔵する敦煌写本はもちろんのこと、北京の国家図書館、パリの国立図書館に所蔵する写本についても、本研究課題に関わる重要なものについては、できれば実物を閲覧する機会を得たいと思っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の残額はわずかで、ほぼ当初の予定額を使用したと言える。残額分は、次年度の物品費に使用する予定である。
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