2012 Fiscal Year Research-status Report
中世タミル語の聖徒列伝『ペリヤ・プラーナム』の批判的翻訳と文学的・思想史的研究
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23520062
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山下 博司 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20230427)
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Keywords | ヒンドゥー教 / バクティ / タミルナードゥ / 中世 / タミル語 / シヴァ派 |
Research Abstract |
本研究は、南インド・タミルナードゥで中世に成立した『ティルットンダル・プラーナム』(『ペリヤ・プラーナム』)の批判的翻訳と文学的・文献学的研究を内容とするものである。 本研究計画の平成24年度分研究に関して言えば、翻訳の部分については公開された成果が未刊であるものの、研究の部分については、辛島昇東大名誉教授の編集による英文出版物『南インド史概説』(Concise History of South India:Issues & Interpretations)の、第5章(10th Century to 12th Century: Emergence of a Centralized State)中の第7節(Language and literature)を担当し、『ティルットンダル・プラーナム』が成った当時の宗教文学的な流れを記述する中で、当作品の性格と影響とを詳述している。この部分は、本研究による成果の一部、特に平成24年度のそれを忠実に反映するものである。本書は、インドのオックスフォード大学出版局から今年度中に刊行される予定で、担当部分はすでに入稿済みである。 さらに、世界宗教百科事典編集委員会編・井上順孝編集主幹『世界宗教百科事典』(丸善出版)に寄稿した諸項目中の「南インドの バクティ運動」及び「ヨーガとスィッタル」に成果が大いに活かされている。 また、立川武蔵・杉本良男・海津正倫編『朝倉世界地理講座4・南アジア』(朝倉書店)で「南インドのヒンドゥー教」を執筆している。 同じく宗教事典である、山折哲雄監修(川村邦光・市川裕・大塚和夫・奥山直司・山中弘編集)『宗教の事典』(朝倉書店、平成24年)の「世界の宗教潮流:ヒンドゥー教」、「世界宗教の聖典:ヒンドゥー教」、「宗教の基礎用語:バクティ」、「宗教の基礎用語:ヨーガ 」といった担当項目にも最新の知見が反映されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、上に述べたように研究成果を数点の学術出版物に反映させることができた。本研究計画の遂行を通じて見出された最新の知見を学界や江湖に発信し得たという点で、きわめて有意義な年度だったと考えている。また、これらの執筆の過程で原文に当たったり事実関係を調べ直したりするも多く、そのことにより結果的にさまざまな問題点がより明瞭に浮かび上がり、今後の研究の指針を得ることができたという点で、事典執筆の相乗効果を得たことも事実である。 一方で、中世タミル語の翻訳作業は、註と照らし合わせながらの作業であることもあって、今のところやや難渋しており、進捗に若干の遅れが生じつつあることも否定できない事実である。これまで翻訳し得た分量は、当初の予定を下回っているのが現状であり、より一層の集中が求められる段階にさしかかっている。 以上のような進捗状況についての自己点検を踏まえて、今年度以降の計画を具体的に策定していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に刊行された諸々の研究成果は、作品論や文学史・宗教史的研究作業によるものに偏っていた感が否めない。並行して進めている地道な翻訳作業の成果が直接的に反映されたものではない。すなわち、翻訳と研究の二本柱から成る本研究の成果発信に際して、一方のみが際立つ結果になった。これは一種の反省材料であり、平成25年度の設定目標にも考慮されることになる。平成24年度以降は、バランスのとれた成果発信を心がけたい。 平成25年度は、作品研究の成果を発信し続けることに加えて、やや遅れを生じつつある翻訳作業のほうにも重点を置いて進めていきたい。翻訳作業をおこなっていくに当たっては、インド・マドラス大学の研究協力者たちともより密接に打合せやs意見交換をおこない、訳出作業の進捗に資する適切な助言や情報提供などを随時得ていきたい。 翻訳と並行して進める作品研究については、執筆の過程で問題点が浮き彫りになった事項を中心に、他の中世作品との比較の観点を採り入れながら、より詳細な内容に切り込んでいきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、中世作品の「訳出」と当該作品を材料とする中世ヒンドゥー教の「研究」という本研究計画の二本柱に沿って、バランスよく研究を進めていきたい。当該作品の翻訳については、基本的にこれまでの作業をより効率的に、スピード感をもって進めていくことに尽きるが、効率的な読解作業のためには、南インド・チェンナイ市に赴いて、マドラス大学所属の研究協力者たちと意見交換をおこない、より具体的には、誤訳の訂正や読み方の指導にまで踏み込んで協力を求める必要がある。したがって、期間中に1回はインドへの渡航(2週間程度)が組まれる見込みである。翻訳の作業には、各種文具、記憶媒体、プリンタトナーなどの出費も随時必要となろう。 作品研究に特化した研究活動の部分については、当然のことながら、インド渡航時に関連の研究書を手広く収集する必要があり、そのための経費も計上するが、現地事情と事務手続きの関係で、消耗品扱いでの購入及び処理を予定している。
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Research Products
(3 results)