2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520063
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
後藤 敏文 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (40215497)
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Keywords | 業と輪廻 / ヴェーダ / 仏教 / アヴェスタ / 死後の観念 / インド・イラン文献学 / 印欧語比較言語学 / 古代宗教 |
Research Abstract |
仏教をはじめインド思想史を貫く公理を形成する「業と輪廻」の観念は,先行するヴェーダ宗教における祭式理論の展開がもたらした必然的帰結といえる。しかし,その経緯は必ずしも研究者の共有するところとはなっておらず,理論成立後の時代を専門とする研究者の中には,土着の思想から取り入れられた観念などと説明する者が未だにあると聞く。本研究は,リグヴェーダ,サンヒター文献,ブラーフマナ文献,ウパニシャッド,仏典をはじめとする関連箇所を検討して精密な翻訳,注解を作成し,「業と輪廻」理論の具体的展開次第を信頼できる資料として提供することを目的とする。さらに,ゾロアスター教の『アヴェスタ』に見られる死後の観念との比較を通じてインド・イラン共通時代に遡る要素の残存についても確定を試みる。 本年度は,昨年度に引き続き,『リグヴェーダ』(前1200年頃編集)讃歌を精査し,様々な箇所を点検整理した。これに続く時代の,ブラーフマナ,ウパニシャッド,仏典の関連箇所を見直し,いくつかの展開の道筋を成す要素を辿り直し,展開の全体像について,見取り図を精密化した。 「業と輪廻」を構成する諸要素を,どこまでインド・イラン共通時代,さらには,インド・ヨーロッパ共通時代に辿ることができるか,また,人類の歴史に普遍的な要素をどの程度想定すべきか,については明確にできない部分が残るが,沈む太陽,夜の太陽光の救出,などについて,『リグヴェーダ』をはじめ,ヨーロッパ,ユーラシアに残る考古学的資料などとの摺り合わせを改めて試み,一定の成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『リグヴェーダ』と,これに先行するインド・イラン共通時代,インド・ヨーロッパ祖語時代の検討に,所期の予定以上に時間を割いた。そのため,原稿としての完成情況は予定より遅れているが,その分,研究内容の深化と広がりとは得られた。 ヴェーダ文献研究の基礎とすべく,『古インドアーリヤ語形態論』を執筆し,昨年度出版予定であったが,編集者(オーストリア学士院)の希望により,さらに一部に手を加え,参考文献を追加した。『リグヴェーダ』ドイツ語訳の計画は現在校正中であり,担当する第 4巻について,作業をした。これらの仕事に時間を割いた分,新しい時代の文献についての原稿完成が予定より遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで検討した箇所を原稿の形に上げる。仏典,医学書,ジャイナ経典からの抄録,『アヴェスタ』,特に『ハドークフト・ナスク』II 8以下も原稿に含めるべく取り組む。年度末までに,文献研究から得られた知見を吟味分析し,立体的に組み立てて解説を加え,信頼できる資料集として出版原稿の形に仕上げる。 できれば,成果を他の研究者,興味のある人々と共有し,より理解しやすい普遍的な水準で提示できるように,仏教研究,宗教学の分野から研究者を招いて,公開研究会を開きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことにより発生した未使用額であり,平成25年度請求額と併せて,国内旅費及び物品費として平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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