2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520064
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
蓑輪 顕量 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (30261134)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 真心要決 / 和会法相 / 宗鏡録 / 義林章 / 法勝寺御八講 / 論義 / 両様 |
Research Abstract |
本年は良遍の『真心要決』の写本を収集するところから始めた。まず国立東京博物館に薬師寺から寄託管理された良遍の自筆本『真心要決』を、薬師寺の許可を頂き、23年8月の上旬に閲覧した。しかしながら、写真撮影が出来ず限られた時間の閲覧に留まったので、その制約の故に、訓点に関する知見は十分に確認することができなかった。しかしながら、本人が付したものと推定される訓点の調査が是非必要であることを痛感した。再度、薬師寺から撮影許可を取得すべくお願いをしている次第である。なお、後の写本になるが東洋大学に所蔵される『真心要決』を入手することが出来た。それは「後抄」のみであった。なお、大正新修大蔵経に収載される『真心要決』に基づき、注釈学的な研究を行ったが、その際にはpcを購入した。 良遍が当初、禅宗との異同を記そうと努め、作成したのは一巻のみであり、前抄のみがまず通行したのではないかと推定されることが分かった。おそらく『真心要決』前抄、後抄本末の三巻本に増稿され、整えられるのは、別の要因が働いたものと推定される。良遍は独自の言葉で、たとえば「見ると雖も見ざるが如し」「聞くと雖も聞かざるが如し」などとその禅の境地を示そうとしているが、慈恩基の『大乗法苑義林章』や延寿の『宗鏡録』の影響が、語句の引用から確認されることが分かった。その成果は平成24年度の学会に発表する予定である。なお関連する研究論文の収集に学生のアルバイトをお願いした。また、良遍の活躍した時代、彼自身も出仕している法勝寺御八講の論議の特徴を考察することも併せて行った。なお当時の論義の資料も東大寺図書館に複写をお願いし取得することが出来た。これらの成果は印度学仏教学会およびアメリカのAARで発表し、論文にすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『真心要決』の原本を閲覧した上での禅との思想的交渉の研究を目指しながら、残念ながら、原本の閲覧を十分に行うことができなかった。それは、良遍の著作になる『真心要決』の自筆原本の所在を確認することはできたが、所蔵者の薬師寺の撮影許可を得られなかったため、博物館における閲覧による調査になってしまったことに起因する。閲覧に費やすことの出来る時間的な制約により、大事な情報を、十分に確認することが出来ないまま、注釈学的な研究を行わざるを得なくなってしまった。これは、写本の所有者である薬師寺、寄託管理者の東京国立博物館、および閲覧希望者の小生という三者の思惑が錯綜し、写真撮影の許可を得る手続きに、困難が生じたことに原因がある。なお、閲覧にはかなりの時間を要することが見込まれ、また実際の閲覧による写本そのものへのダメージを心配し(鎌倉期のものであり、手にとっての閲覧作業は写本そのものを痛める可能性があると危惧された)、写真撮影によって撮影されたものを中心に調査研究、のちに写真では判別できないところを実際の閲覧により再確認するという手順を執った方が望ましいと判断したからでもある。そのため、長期間にわたる閲覧を行うことを避けた。なお、若干、注釈学的作業に入る時期が遅くなってしまったことも否めない。作業そのものは大正新修大蔵経に納められたものを底本に遂行したが、写本にのみ記された情報を確認することが全部はできていないことが残念である。
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Strategy for Future Research Activity |
良遍の著作である『真心要決』に対する研究は刊本による研究に切り替えて進め、また周辺的な資料の研究を合わせて行った。次の年度に予定している写本調査は、すでに東大寺図書館で撮影および印刷に向けた準備を進めており、初年度のような困難に直面しないように早め早めに進めている。写本に関する研究は、所蔵者の思惑が大きく影響し、自由な閲覧・研究がしにくいことを改めて実感したので、なるべく早めにかつ慎重に準備を進めるようにする予定である。また、こちらが閲覧を願っている写本の調査が困難なときには、版本や刊行されたものを資料にすることに切り替えたい。ただし、今年度に予定している『梵網戒本疏日珠鈔』は、すでに、写真版の入手の目途が立っているので、その心配はないと思う。しかし、それでも周辺の資料で写本の入手が困難な場合には、写本にこだわらずに研究を進めることで、最終的な目標である禅との交渉を中心とした思想研究を遂行したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(平成24年度)は凝然の残した資料である『梵網戒本疏日珠鈔』50巻を中心に考察を進める予定である。すでに中世の写本が東大寺に所蔵されていることを確認しており、また写本を所蔵している東大寺図書館には連絡を取り、印刷焼き付けの許可をいただいている。実際の読解作業において、写真焼き付けのみではわからないところは、図書館のある奈良県奈良市の東大寺に赴き、写本の確認をしなければならない(旅費)。なお写真の印刷は、撮影ネガからの焼き付けであり、かなりの費用がかかることが予想される(その他の経費)。それらの資料と、大正新修大蔵経に収載された同テキストを対照しながら、読解の困難なところの解読を進めたいと考えている。また、凝然に関する先行研究には多くのものが存在するので、それらの収集には若手研究者にアルバイトをお願いする予定である(謝金)。また、先行研究で、本務校の図書館に所蔵されていないものは購入しなければならない(物品費)。最後に研究成果を学会において発表し(旅費)、または学会誌に投稿する形で発表していきたいと考えている。その際にも費用が発生することが予想される(その他の経費)。
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