2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520064
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
蓑輪 顕量 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (30261134)
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Keywords | 南都仏教 / 禅宗 / 良遍 / 凝然 / 円照 / 真心要決 / 華厳宗要 / 志玉 |
Research Abstract |
本年度の第1期から第2期は凝然の『日珠鈔』と『法界義鏡』『華厳宗要』の研究を進め、凝然の真心、妄心の理解に関し、晩年に変化のあることを明らかにした。凝然の華厳教学に関する晩年の著作である『華厳宗要』からは彼が諸行を是認する態度を取るが、そこに新来の禅の影響を見て取れることを明らかにした。第3期は戒壇院志玉の著作である『華厳五教鈔見聞』を検討しつつ全体の総括を行った。円照、凝然には『宗鏡録』の影響が、志玉には禅か華厳の影響か判別のつかないことが認められた。その成果は印度学仏教学会、東アジア仏教研究会で発表し論文に纏めた。またロンドン大学SOASにおいてワークショップを行い、同じくその成果を公表した。 この三年間の研究で中世初頭、禅宗が伝来し、既存の宗の中でも不十分な解明しかなかった南都の法相宗、律宗、華厳宗に禅が与えた影響を具体的に明らかにした。特に南都に影響を与えた禅宗は東福寺円爾辨円の臨済系の禅であり、その中心に中国の永明延寿の著作である『宗鏡録』が存在したことを確認した。禅宗が伝播して以降、南都では東大寺戒壇院の円照、凝然などの諸僧及び生駒竹林寺の良遍に影響を与えた。良遍は覚りの境地を見聞覚知があっても判断や了別のない境地と表現したが、それは法相の述べる無分別智であり、また禅の述べる本有心と同質であると捉えたことを明らかにした。 また、円照の場合は伝記に散見される否定的な表現から禅的な理解が確認されるが、それも『宗鏡録』からの影響と推定した。また凝然は初期の『日珠鈔』から晩年の『華厳宗要』に至る過程で、真心を強調する傾向に展開し、また華厳の行として諸行が是認されるが、それらは禅宗の強調する自性清浄心の影響であり、かつ『宗鏡録』の諸行を是認する姿勢と一致することを明らかにした。南都の13,14世紀初頭の禅宗の影響を具体的な形で明らかにできたことは新たな成果である。
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