2013 Fiscal Year Annual Research Report
『知識論決択』における法称の論理学の解析 ― 法上の梵文注釈に基づいて ―
Project/Area Number |
23520068
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岩田 孝 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80176552)
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Keywords | 主張命題の定義 / 他者のための推論 / 有形相瑜伽行派 / 無形相瑜伽行派 |
Research Abstract |
法称は、Pramanaviniscaya(『知識論決択』)の主張命題の定義の説明において、常識的な命題に反する反対主張―例えば「懐兎は月である」という周知の命題に反する「懐兎は月ではない」という主張―を論駁するために、「それは主張命題の過失となる」という対処法を陳那説に従って用いている。陳那は、推論がないという条件の下で、その反対主張が世間上承認された事柄によって否定されるならば、その反対主張は主張命題の過失である、と説いている。法称は、この陳那説を説明する際に、「推論の非有」という陳那の文言に関して、「世間での承認に対立する」命題を証明する推論がないという解釈と、「世間で承認された」命題を証明する推論がないという解釈を導入している。論文では、第一の解釈の拠り所を分析した。その結果、法称は、任意の言葉によって指示対象(分別知に顕れる形相)が表現されるという説を拠り所としていた、ということを明らかにした。更に、世間上承認されたことを確定するのは推論である、という見解に立っていたことを明らかにした。 法称の論理学説の展開として、サハジャヴァジュラ(11世紀頃)の『定説集成』(Sthitisamasa)の顕教の中の有形相瑜伽行派の定説を考察した。後期大乗仏教においては、対象および知識すべては本体に関して空である、という諸法空性が認められているが、瑜伽行派の有形相知識論者は、特定な対象の認識の確立を可能にするために、知識が対象の形相を有すること(有形相性)を主張した。但し、知識の有形相性の論証に関しては明確ではないものも含まれていた。サハジャヴァジュラは、この有形相性を明確な論証式を用いて記述している。論文では、『定説集成』の梵文写本の校訂と和訳に基づいて、この論証の妥当性について考察を行った。
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