2011 Fiscal Year Research-status Report
「もの」と「場所」の霊性の生成に関する宗教人類学的研究
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23520082
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
長谷 千代子 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 講師 (20450207)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 中国雲南省 / 文化人類学 / 宗教 / 観光 |
Research Abstract |
本研究の目的は、中国と日本の事例研究を通して、現代的状況において「もの」や「場所」の霊性が生成するメカニズムの解明を目指すことである。方法としては、A.徳宏タイ劇の劇神と舞台、B.今津人形芝居の人形と舞台、C.徳宏上座仏教の仏像と上座仏教寺院、D.聖遺物と仏塔、E.観音像と観音寺、F.シャーマンとしゃーまんの集会、という事例についてデータを収集し、それらを総合的に考察して結論を導き出す。 このうち、Aについては1月末に行った現地調査で3つのタイ劇を観察し、関係者たちに詳しい話を聞くことができた。現在データを整理・分析中である。なお、戯曲『シャンムーン』の下訳を終えた。B.については、年中行事や地理情報など基礎的な部分からの調査を開始し、同時に人形芝居の定期公演にかかわり、現在も定期的に稽古に参加して情報収集に努めている。今津の年中行事については、福岡市の事業として編纂されている『福岡市史』に「今津の四季」として掲載されることが決まった。Eについても1月末と9月に行った現地調査で、多くの収穫があり、観音信仰の中心は必ずしも観音寺ではなく、信仰を媒介として政府関係者から田舎暮らしの少数民族までをつなぐ独特なネットワークの存在が明らかになった。これは現代における「聖地」の意味を考察するための重要なポイントであり、データの整理と分析を進めている。また、Fについては当初もっとも調査が困難と思われたが、二度の現地調査においてシャーマンたちとの幸運な出会いがあり、ある程度の調査が可能であるという感触を得た。 理論研究はまだ緒に就いたばかりだが、10月に宗像市で行われた「九州人類学研究会オータム・セミナー」で、「フィールドから考える自然と宗教」というセッションを組み、宗教学の従来の概念に対する検討と、今後の見通しを中心に「場所性から考えるアニミズ試論:徳宏州の事例より」と題して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画は、(1)事例A(中国徳宏州のタイ劇)に関連して、戯曲『シャンムーン』の成立と上演形態に関する資料をまとめ、出版用の原稿を仕上げる、(2)事例B(今津の人形芝居)に関連して、基本的な現地調査と、アンケート調査を実施する、(3)その他の事例については、これまで集めた資料を随時整理する、の三つだった。 このうち、(1)については、少数民族語による戯曲のニュアンスを確認するのに予想以上に時間がかかり、なんとか下訳は終えたものの、出版用の原稿を完成するには至らなかった。数字でいうとすれば、50%程度の進展に留まった。しかし、タイ劇の上演形態については、実地調査によって多くの資料を入手することができた。 (2)については、地元の人に予想以上に歓迎していただき、順調に調査が進んでいる。集中的にインタビューするほうが効率的に密度の高い情報を集められそうだったので、アンケート調査はインタビュー調査に切り替えて継続中である。 (3)については、これまでの資料整理は順調だが、本来次年度以降に行うつもりだった調査も一部実施することができ、これも予想以上に進展している。しかし、データばかりが先行して集まってしまい、データの整理と分析が追い付かない状況になっている。 総合すると、(2)と(3)は予想以上の進展があったが、(1)は十分に達成できなかったので、全体としてはおおむね順調に進展していると言えると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
計画では、(1)事例A(中国雲南省のタイ劇)に関して、現地調査を行い、劇神に関するインタビュー実施と実際の上演を参与観察する、(2)事例C,D(聖遺物と仏塔、徳宏の仏像と寺院)に関して、建築関係の研究者の協力を仰ぎ、これまで集めた資料を整理し、現地調査の準備をする、(3)事例B(今津人形芝居)に関して、基本的な参与観察を継続する、(4)その他の事例については随時取り組む、となっている。 このうち、(1)については、順番が逆になり、参与観察は思いがけず去年のうちに実現し、去年完成させる予定だった戯曲の翻訳・解説書が積み残された。よって、今年は戯曲の翻訳・解説書の出版原稿の完成を第一の目標とし、劇神に関するデータの整理と分析を並行して行う。その他については現時点で計画の変更はない。ただ、総じて予想以上に大量のデータが集まる傾向にあるので、収集したデータの整理と分析が滞らないようにすることを特に強くこころがけたい。また、5年計画のうちのまだ前半ではあるが、経過報告の意味も込めて、論文ないし学会発表もできるだけ行うようにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は間接経費を含めて50万円となっている。計画としては、直接経費の約60%を中国での現地調査の旅費に使うことになりそうである。また、データの整理と分析を急がねばならないので、研究補助者の短期雇用のための人件費・謝金を30%、残りを図書購入などの物品費と考えている。
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