2012 Fiscal Year Research-status Report
石塔と金石文を素材とする思想史研究の新たな領域と方法の開拓
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23520095
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 弘夫 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125570)
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Keywords | 金石文 / 石塔 / 幽霊 |
Research Abstract |
現存する中世の石塔のデータを網羅的に収集すると同時に、その銘文に関するデータベースを作成した。また石塔に関連する資料とその分析に必要な参考文献・図書・報告書の収集を行った。あわせて、研究の鍵となる主要な石塔群については、実物について実地調査を行うとともに、それを写真撮影して記録した。実地調査は、六郷満山(大分県)、慈恩寺とその周辺(山形県)、朝熊山(三重県伊勢市)、善光寺(長野県)、松島(宮城県)において実施した。 本研究は、石塔に加え、聖地を構成する経塚、木像・絵像、文献史料などを博捜して当該フィールドの宗教空間をトータルに解明し、歴史的・思想的なコンテクストに位置づけることを目指すものであった。その目的を実現すべく、本年度は収集した石塔のデータについて本格的な分析を行い、背景にあるコスモロジー及び死生観の解明を試みた。その結果、実地調査を行った各地域について、空間構造のおおまかなモデルを構築することに成功した。また、日本の中世は不可視の彼岸世界のイメージが肥大化する時代であったが、その理想世界と被救済者をつなぐ聖地・霊場の立地上の特質と、その役割の重要性を明らかにすることができた。 その成果は、数多くの論文として刊行された。また、本研究の成果を広く海外に発信するとともに、海外をフィールドとする宗教的空間研究と擦り合わせを行うために、韓国・台湾・アメリカに出張し、現地での研究者との打ち合わせ、研究発表、現地調査などを実施し、今後の研究に向けての人的なネットワークを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で記したように、本研究は順調に進展しており、当初目的として掲げた①本研究の目的に添った形での石塔・金石文などの基礎データの収集・整理とその分析、②その成果を踏まえた国内外の研究者との研究打ち合わせと討論、③研究成果の国際学会での発表、いずれについても所期の目的を十分に達成することができた。以上の成果は、多数の口頭発表・論文発表という形で、国内外において公開された(「研究発表」の項参照)。 本研究は日本の中世に焦点を絞り、大量に残存する五輪塔・板碑などの石塔群を素材として取り上げ、その配置状況や銘文の分析を通じて当時の人々が共有するコスモロジーと死生観を解明し、古代・近世と比較しつつ、その独自性を明らかにすることを一つの柱としている。この点について、今年度は中世の供養塔と近世のそれを比較対照することによって、両者の性格と機能の違いを浮き彫りにするとともに、その背景にある両時代のコスモロジーの相違を明らかにすることができた。その作業を通じて、中世と近世の死生観の断絶と、なぜ近世社会に大量の一般人の幽霊が登場するのか、その背景についておおまかな見通しをえるに至った。 また、以上の考察によって明らかにされた中世固有の時代思潮と世界観を背景に置くことによって、従来の思想史研究の大半を占めていた、いわゆる鎌倉仏教、神道思想、本覚思想といった頂点的・体系的思想に、新たな角度から意義と意味を見出すことを目指すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、本研究を日本中世という特定領域の研究にとどめることなく、石塔などの非文字資料や金石文などの体系化されないテキストを用いていかに時代思潮を再構成していくかという、思想史一般の方法論の問題として深化させ、その成果を国内外に発信することを最重要の目標とする。 その目的を実現するため、石塔をめぐるさまざまな問題について多角的な考察を行う。石塔の建立は飛鳥時代から見られる現象であり、その伝統は形を変えながら江戸時代を経て現代にまで継承されていく。他方では、日本列島の石の文化は縄文時代の環状列石にまで遡るものである。また、石塔の文化は東アジア各地において厚い伝統を形作っている。さらに石塔は単独で存在するものではなく、その建立の背景にはそれを生み出す文化的・思想的な基盤と土壌があり、同じタイプの石塔でも時代と地域によってその意味付けは異なる。 そうした事実を踏まえて、日本中世を中心とする石塔の特質を、時代と国境の枠を超えた広い視野の中で多角的に検討する。具体的な作業計画としては、これまでに引き続き、現存する中世の石塔の情報を網羅的に収集すると同時に、そこに勧請された神仏のリストアップを行い、そのデータベースを作成していく。また、石塔に関連する史料とその分析に必要な参考文献を収集する。 それに平行して、石碑のデータの整理と分析を完了し、先の起請文研究の成果と照らし合わせながら、日本中世において共有されていたコスモロジーと死生観の特質を、日本にとどまらない広いコンテクストの中で明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1、引き続き現存する中世の石塔のデータを網羅的に収集すると同時に、その銘文に関するデータベースを作成する。データ整理と入力のための謝金を見込んでいる。 2、実地調査は、これまで実施してきた六郷満山、朝熊山、慈恩寺、松島において継続して行う。調査には関連分野の研究協力者が参加する予定であり、調査旅費を見込んでいる。 3、国内外の学会において、本課題の研究成果を発表する。海外では英語で発表する予定であり、そのための成果発表旅費と翻訳のための謝金を見込んでいる。 4、次年度使用額は、今年度の研究を効率的に実施したことにともなう未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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