2011 Fiscal Year Research-status Report
イブン・スィーナー『治癒の書』に関する比較思想史的研究(2)
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23520097
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
小林 春夫 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70242229)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 英海 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20349228)
仁子 寿晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, その他 (10376519)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | イブン・スィーナー / イスラーム哲学 / 治癒の書 / 形而上学 |
Research Abstract |
(1)定例研究会。本年度は計3回の定例研究会を開催した。その概要は以下の通りである。第一に、イブン・スィーナー『治癒の書」形而上学、第1巻第6章を精読し、日本語訳および訳注を作成した。この作業には2種類の刊本と、アラビア語写本(MS.Bodleian Pococke 125)、各種注釈、中世ラテン語訳、現代語訳(英訳1、仏訳1、伊訳2、独訳1、日訳1)を参照しつつ行った。第二に、この箇所は「必然的存在者」「可能的存在者」など、イスラーム思想における中心概念を扱った重要箇所である。このことに鑑み、哲学のみならず神学などの議論を踏まえつつ、その意義の解明に努めた。またギリシア哲学や西洋中世哲学などとの比較を試みた。 (2)個別研究。研究代表者ならびに研究分担者2名がそれぞれ専門とする領域において資料の調査・収集を行ない、本研究課題に関連する個別研究を進めた。そしてその成果を論文等により発表した。 (3)研究連携。研究の実施にあたっては関連する諸分野の研究者にホームページなどを通じて積極的な参加を呼びかけ、イスラーム哲学のみならずギリシア哲学や中世キリスト教思想などの専門家との連携をはかった。また大学院生など若手研究者の育成に配慮した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)イブン・スィーナー『治癒の書』の精読に関して。今年度は前半において研究会の開催が困難であったため、実際に読み進めることのできた頁数についてはやや不満が残る結果となった。しかしながら計3回実施した研究会においては、複数の刊本と注釈・翻訳を比較検討した他、当該テクストに関する最も重要な写本の一つを新たに入手し利用できた。また中世西洋哲学の専門家が研究会のメンバーとして加わったことにより、さらに多面的な観点から議論を交わすことができた。 (2)同書に関連する個別研究に関して。古代ギリシア哲学(とりわけアリストテレス哲学)の影響、同書とイスラーム神学や神秘主義等との関係、イブン・スィーナー以降のイスラーム思想の展開における同書の影響、シリア語圏および中国語圏における同書の影響などについて、研究代表者および研究分担者2名が個別に解明にあたった。さらに研究文献を中心とする関連資料の調査収集と分析を進めることができた。(3)国内外の研究機関における文献調査に関して。研究経費には直接反映されていないが、今年度は研究代表者がフランス国立図書館、ライデン大学図書館(オランダ)、ベルリン国立図書館などにおいて、イスラーム哲学に関わる写本の調査と資料の収集を行った。 以上の成果より、本年度の研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)イブン・スィーナー『治癒の書』の読解作業に関しては、これまでと同様の方法で精力的に進める。またその成果については、学術雑誌等に積極的に発表していく。 (2)本書に関連する個別研究に関しては、代表者および分担者2名がそれぞれの研究分野に応じた研究を推し進めるとともに、その成果を論文等のかたちで発表することとする。また研究の進展に応じて公開シンポジウムなどの開催も検討する。 (3)国内外における関連資料の調査・収集を継続する。 (4)より広い範囲の研究者に参加を呼びかけることにより、関連する研究領域間の協力体制の確立に努める。また若手の研究者の育成に配慮し、この分野の研究発展を期す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の計画を推進するため、物品費(図書費など)を中心に、旅費(調査旅行、研究会参加旅費など)、謝金(資料整理など)の支出を見込んでいる。
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