2013 Fiscal Year Research-status Report
イブン・スィーナー『治癒の書』に関する比較思想史的研究(2)
Project/Area Number |
23520097
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
小林 春夫 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70242229)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 英海 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20349228)
仁子 寿晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, その他 (10376519)
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Keywords | イブン・スィーナー / バルヘブラエウス / ファーラービー / 治癒の書 / イスラーム哲学 / シリア語 |
Research Abstract |
今年度は、分担者および協力者による個別研究の他に、2回の研究会(平成25年7月6日および12月7日)と1回のシンポジウム(12月21日)を開催した。 小林春夫(研究代表者)は、イブン・スィーナーの哲学全般について研究を進めた。形而上学に関しては、本研究課題の対象である『治癒の書』の該当箇所を精読し、翻訳と注釈にあたると同時に、関連するテキストの調査と比較、他の研究者による論文の検討、関連する資料の調査と収集に努めた。また、イブン・スィーナーの自伝を翻訳し、詳細な解説を付した。さらに、イブン・スィーナーの思想がそれ以降のイスラーム思想史に及ぼした影響について、スフラワルディーおよびファフルッディーン・ラーズィーの著作を具体例として、明らかにした。 高橋英海(研究分担者)は、シリア語圏を中心とする思想史全般について研究を進めた。特にイブン・スィーナー『治癒の書』をはじめとするイスラーム思想がキリスト教徒思想家バルヘブラエウスに与えた影響について、引用箇所を詳細に分析し提示した。 仁子寿晴(研究協力者)はイブン・スィーナー以前のイスラーム哲学、とりわけファーラービーの思想の解明にあたるとともに、中国語圏におけるイブン・スィーナーの影響を明らかにすべく劉智『天方性理』などの著作を検討した。 以上3名はその研究成果の一部を、「イスラーム哲学の転換点―イブン・スィーナーをめぐる比較思想の試み」(中東イスラーム世界セミナー、東京大学駒場キャンパス、平成25年12月21日)において一般向けに発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度内に2回の研究会を開催し、それぞれに7時間程度の時間をかけて集中的に討議した。検討したテクストは分量としてはさほど多いとは言えないが、多分野の研究者を交えて活発な議論ができたことは大きな収穫である。また大学院生などの教育の場としても一 定の役割を果たしていると考えている。 しかしながら、直接的な成果である『治癒の書』の訳注については今年度は発表できなかったのは大いに悔やまれる。他方、これまでの研究成果の一部を分担者と協力者とともにシンポジウムの形で一般に公開できたことは大きな成果である。また、個別研究については関連資料の収集と分析などを含め順調に進んでいる。 今後とも通常の研究会を通じて根幹である精読と多面的検討を行うと同時に、論文や口頭発表などでの成果発表に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)平成25年度に引き続き、定例の研究会を年に数回開催し、テクストの精読とその思想史的影響に関する多面的検討を重ねる。その際には、最新の研究動向を反映すべく、関連文献や研究情報の収集に努め、それを研究会等において随時紹介することとする。 (2)必要に応じて海外を含む調査旅行を行ない、資料の収集や、研究者との情報交換等に努める。 (3)研究成果の発表については、『治癒の書』の訳注を学術雑誌に発表すべく準備を進める。 (4)代表者および分担者(研究参加者)の個別研究を継続し、その成果を論文や口頭発表のかたちで公にしていく予定である。
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