2014 Fiscal Year Annual Research Report
『百科全書』における科学理論の説得の言説に関する領域横断的研究
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23520104
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 十八世紀 / 百科全書 / 科学史 / ディドロ / ダランベール / 進歩 |
Outline of Annual Research Achievements |
ディドロは『百科全書』の項目「百科全書」で主として技芸の進歩の歴史を例に挙げ、国益を口実に先端技術やその発明者の功績を秘匿しようとする政府および「良き市民」らの偏狭な精神を批判し、一国の目先の経済的・政治的利害や国民的趣味を超えて人類全体の未来に貢献する進歩の哲学を『百科全書』の編纂方針として力強くアピールしている。そして、『百科全書』がより多くの読者を獲得する手段として質朴かつ多彩な文体の必要を説きつつも、しばしば内容の理解の妨げとなる二重理論や韜晦を不寛容な検閲から身を守るための必要悪として認めている。 一方、ダランベールは『百科全書』「序文」で、文芸復興期以来、ベーコン、デカルト、ニュートン、ロックをはじめとする偉人が哲学と科学の変革と進歩にもたらした功績を称揚し、近代における主要な科学的発見やそれぞれの時代を画した科学理論の流れを科学の進歩の歴史として素描している。また、科学の進歩の障碍となってきた新旧理論の支持者達による学派対立や古い理論に固執する国民的偏見を単に批判するのではなく、人間の普遍的情念に起因する不可避的な現象とした上で、古い理論が必ず反駁を受け、新しい理論によって乗り越えられることを科学理論の宿命とすることで、科学の歴史的進歩を正当化している。 以上の点から、技芸と科学という主たる対象領域の違いはあれ、ディドロとダランベールが一国の国家的・経済的利害や国民的偏見に囚われない技術や学問の自由な発展を理想とする進歩の哲学を共有していたこと、両者が古今のあらゆる学芸に関する知識を読者に提供することで未来にわたる人類の知的進歩の礎とすべく『百科全書』を構想する一方で、一般読者層の拡大による啓蒙主義の一層の浸透を目指して『百科全書』を党派的言説のメディアとして十二分に活用していたことが分かる。
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