2011 Fiscal Year Research-status Report
近代日本と中国における「哲学」概念の成立過程の比較研究
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23520105
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
高柳 信夫 学習院大学, 付置研究所, 教授 (80255265)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 哲学 / 近代日本 / 近代中国 |
Research Abstract |
平成23年度に研究活動は、関連書籍・資料や既存の諸研究を収集し、近代における日本・中国・西洋の「哲学」や関連諸学についての理解を深める一方、青少年期に伝統的教育を受けながら、幕末から明治初期にかけて西洋の新たな学術に触れることとなった所謂「明治啓蒙期」の思想家の代表的人物として中村正直・西周らをとりあげ、彼らの著作を読み込むことによって、その西洋思想の導入のあり方と、彼らの「哲学」に対するイメージを検討することを中心とした。 その結果、彼らの西洋思想の受容・解釈のあり方や西洋の「哲学」的学説についてのイメージには、従来の研究で言われている以上に「儒教」的な要素の影響が強く、それは単なる「語彙」等のレベルにとどまらず、「学」の体系の構造や「学」の社会的意義についての見方にまで及ぶものであることが明らかになった。 また、比較対象として、中国についても、「若年において伝統的な儒教のトレーニングを受けた上で、西洋の様々な思想に触れた人物」として、厳復・梁啓超・章炳麟らの西洋思想理解のあり方や「哲学」観も検討した。彼らの活動期が1890年代後半以降であったため、彼らは一方において当時の日本思想界を相当程度意識していたが、他方で彼らの西洋思想や「哲学」理解における独自性も強く、その「独自性」の中にも、従来論じられていた以上に、儒教などの「伝統的要素」の影響が見られることが確認された。さらに、彼らと中村や西らとの間の思想的「差異」には、日本と中国の間の「伝統的学術」(儒教など)のあり方の相違の影響によると思われる部分があることも見出された。 なお、本研究の内容と関連する成果として、「中村正直と厳復におけるJ・S・ミル『自由論』翻訳の意味」と題する論考を京都大学人文科学研究所に提出済であり、平成24年度中に論集(題名未定)に収録・発行される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の活動によって、日本における「ディシプリンとしての哲学」の確立以前に「西洋」に触れた中村正直や西周らは、我々が今日一般的に「哲学」として理解している諸学説に関して、儒教等の影響を受けた独自の理解を有しており、彼ら(「哲学」という語の生みの親である西周も含め)の「哲学」観は、明治中期のアカデミズム確立以降の「哲学」観との間にかなり大きな断絶があると見られることが確認された。さらに、厳復・梁啓超・章炳麟らとの比較検討によって、彼らの西洋思想理解のそれぞれの特質において、日中の伝統的要素の相違が関わっている点が明らかになった。以上の点から、本研究は、現段階においては、ほぼ事前に設定した研究計画通りに目的が達成されていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度においては、主として日本における近代アカデミズムの中で「哲学」が一つの学科として成立してゆく過程において醸成されていった「哲学」観や、「哲学」と他の「ディシプリンとしての諸学」の関係についてのイメージについて、この時期に活躍した学者・思想家に関連する諸文献を収集して検討してゆく。その際、平成23年度の研究によって明らかにされた一世代前の思想家たちや、中国のアカデミズム確立期に活躍した胡適・陳独秀らの「哲学」観と比較対照することにより、この時期の「哲学」観や関連諸学についての見方の特質をより明確にすることを目ざし、平成25年度の「哲学史叙述」の問題の研究のための基礎的データの蓄積に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
日本・中国・西洋の近代思想・哲学関連の書籍・資料の収集のために使用する。なお、平成24年度内に、1週間程度の関西方面での資料調査を行うことを予定。
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