2011 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ教における「預言者」vs「祭司」のパラダイム
Project/Area Number |
23520110
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 助教 (60399045)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ユダヤ教 / ユダヤ学 / ラビ・ユダヤ教文献 / 預言者 / 祭司 |
Research Abstract |
本研究は、ユダヤ学のみならず西洋近代思想に「預言者」偏重主義があるのではないかという問題意識のもと、ユダヤ学に通底する「預言者」と「祭司」を対立させるパラダイムとその問題点を明らかにしようとしている。本年度は、19世紀末ドイツで成立した近代ユダヤ学がその営みを預言者の活動の継承と考え評価したラビ(賢者)たちが創り出したラビ文献中の「預言者像、「祭司」像を明らかにすべく、ラビ文献中の「預言」「祭司」に関わる言説を収集、ピックアップ、分析した。そこから推察された事項は次の通り。 1.ラビ文献での関心は、数量的には「預言者」「預言」よりも「祭司」関係が圧倒的に多い。2.「祭司」は総じてハラハー(法的部門)、アガダー(非法規部門)ともに頻繁に言及されるが、「預言者」「預言」は、アガダー、特にミドラシュ(聖書解釈)部門での言及が多い。また、後代の文献になると言及される頻度が高くなる。3.「偽預言者」への法的措置への関心は高い。また過去の預言者、もしくは預言者の時代の歴史的側面への関心も高い。しかし、必ずしも神学的な側面には議論されていない。4.同時代の原始キリスト教で重視されたイザヤに代表される後期預言者への関心が薄い。5.近代ユダヤ学が強調するような、預言者の後継者としての意識は、当のラビたちにはほとんど見られれない。 こうした内容は、第70回日本宗教学学会で口頭発表し、また論文にまとめている。また、ラビ文献についての「祭司」観については、本年出版された自著"Priests and Priesthood in the Aramaic Bible" 中で論じた。 本年の研究は、近代ユダヤ学が想定したような預言者の後継者としての意識がラビには薄かったことを数量的に示したことで大きな意味を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は、近代ユダヤ学の旗手であるツンツの著作から、彼の預言者観、ラビ像を明らかにし、彼が理想としたラビ・ユダヤ教文献からの厖大な資料の中で、関係ある資料をピックアップできたことで第一の目標を実現した。更に、その資料を読み進め、タナイーム資料での特徴と、また近代ユダヤ学の想定とのずれが指摘できた点で、重な意義を果たすことができた。以上より、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ラビ・ユダヤ教文献の中でも、ミドラシュ(聖書解釈)部門については、未読の資料があるので、分析を続けていく。また、中世時代を代表するマイモニデスや神秘主義ゾーハルでの、預言者観、祭司観を表す資料を収集し、分析をする。同時に、近代ユダヤ学の思想家の著作を読み進め、彼らの中のイデオロギーを拾い上げていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主として原典文献の購入を進める。また、海外での学会発表、資料収集のための旅費、論文、著書の発行費用とする。データ整理に関わる院生や英文校正などのための謝金として使用する。
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