2012 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ教における「預言者」vs「祭司」のパラダイム
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23520110
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 助教 (60399045)
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Keywords | 聖書解釈 / ユダヤ学 / 預言者 / 祭司 / ラビ・ユダヤ教文献 |
Research Abstract |
本年度は、ラビ・ユダヤ教文献やタルグムでの「祭司」「預言者」像についてデータを収集を進め、分析した。この過程で、通常ヘブライ語聖書中では「預言者」とされるエリヤが、タルグム・偽ヨナタン中では、頻繁に「祭司」という呼称が与えられることが分かった。同時代のラビ文献にも祭司を「エリヤ」と称する例は見られるが、それらのいわゆる並行箇所との詳細な検証の結果、ラビ文献でのエリヤに対する「祭司」はラビたちの学びの素晴らしさを際立たせるための対照にすぎないのに対し、偽ヨナタンでの「祭司」としてのエリヤは、終末、メシアの到来に深く関係していることが明らかになった。これらの考察を通して、ラビ文献での「祭司」像、またタルグム偽ヨナタンでの「祭司」像の違いが考察された。この考察についての論文は、同志社大学神学部発行『基督教研究』にて、掲載が決定されている。 また、近現代の上記の箇所の注釈者が、ヘブライ語聖書上も、ラビ文献の原文上でも、「預言者」とは規定されていないエリヤを、注釈や論文タイトルの中で、エリヤに「預言者」というタイトルを冠しているケースに気づいたことは有意義な成果である。近現代の注釈者の無意識下にある「預言者」への志向性を表しており、本研究の近代ユダヤ学の「預言者」偏重主義の証左となるだろう。 また、ラビ文献の根幹にあたる『ミシュナ』にて、祭司に関係の深い「神殿」「神殿崩壊」「神殿祭儀」についての言説を集めた。ミシュナでは、神殿崩壊後200年近く経過しているにもかかわらず、「祭司」「神殿儀礼」を具体的に、詳細に記述しており、それらを決して否定はしていない。近現代ユダヤ学が想定したような儀礼中心の貴族的祭司層を、聖書解釈を主体とする民主的なラビ層が克服するという構図には疑問が呈される。この考察は、第71回日本宗教学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラビ・ユダヤ教、アラム語訳聖書についての「預言者」「祭司」像についてのデータの集積が進み、その成果の一つである、タルグム偽ヨナタンにおける「大祭司」エリヤ像についての論考は、同志社大学神学部発行の『基督教研究』での掲載が内定している。これらの原典を解釈する近現代の注釈者が原典での名称の有無に関わらず、「祭司」「預言者」の名称を固定化する現象が推察されたことは重要な成果である。また、ミシュナの中で「祭司」に関係する「神殿」「神殿崩壊」についての事例を集め、その分析を第71回日本宗教学会でパネルを企画し発表した。これも、ラビ教文献の中核にあるミシュナでの「祭司」観に関わるものである。 中世ユダヤ教思想家の著作における「預言者」「祭司」論についてのデータ収集は、まだその途上にあるので、25年度前半期に集中的に進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度の前半期は、ラビ・ユダヤ教文献でのデータを完備すると同時に、まだ資料収集が十分ではない中世時代のユダヤ思想家の「祭司」「預言者」論のデータを集め、分析する。また、こうした原典テキストを解釈するドイツユダヤ学派、近現代ユダヤ学の言説を収集する。その際、2方向からアプローチする。1.サァデイア・ガオン、マイモニデス、ラビ・イェフダ・ハ・レヴィ、ツンツ、ガイガーら、個別の思想家自身の著作の中での「祭司」「預言者」についての言説を収集する。2.聖書上では「預言者」と規定されていない人物が、中世以降の思想家の聖書注釈中で「預言者」と規定される例についても収集する。特に、ヘブライ語聖書での地位が定まらない「エリヤ」を後代の思想家、注釈者がどのように呼んでいるのか、一例として注目する。この2方向のアプローチによって、実際の言説の中での「祭司」「預言者」像と同時に、無意識下にある中世、近現代ユダヤ学におけ預る言者志向性が明らかになる。 後半期は、これまでの研究の総括に入る。すでに7月には、16th World Congress of Jewish Sutidies での「ラビ・ユダヤ教文献とドイツ・ユダヤ学における『預言者』像と『祭司』像」と題する発表が決まっている。他にも9月での第72回日本宗教学会等での発表、論文発表によってこれまでの成果を発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:資料を収集するための原典テキスト、各種二次文献の入手、データ・ベースの入手。膨大な複数言語のデータの分析、収集のための高性能のPC他のIT環境の完備、文房具等を購入する。 謝礼:資料整理を行う大学院生への謝礼、英文論文発表、海外での学会発表の際の英文校正のための費用とする。 交通費:海外学会発表および資料収集のためのイスラエル渡航費、国内学会発表のための交通費とする。
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