2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520115
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
須藤 弘敏 弘前大学, 人文学部, 教授 (70124592)
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Keywords | 来迎図 / 絵巻 / 鎌倉時代 / 法華経 |
Research Abstract |
鎌倉時代を代表する絵画、知恩院蔵来迎図について、これまでの研究や認識ではその主要な問題について大きな誤解や多数の見落としがあることを明らかにし、その正しい解読と位置づけを行った。 一つはやや幅広の正方形に近い形状をした大きな画面の問題である。これは本図が何らかの公開の場を前提に制作されたことを意味し、一幅の絵絹を用いた点も特殊な制作事情を示唆している。もう一つは画面すべてを精密に検討した結果、あまりに名高い「早来迎」という通称が不適当であることを確定した。本図の実際に重要なモチーフは、向って右の邸宅内に坐した人物と、彼と向かい合う山崖にほかならず、阿弥陀二十五菩薩の姿はそれを荘厳する要素なのである。それは、邸宅が西向きではなく南向きであったり、人物が念仏往生者ではなく法華経信仰者として描かれていることなど多数の要素からも証明できる。 また、三つ目の大きな課題は山や花木の描写で、四季を具備した表現とする複数の説が成り立たないことを画像の分析によって論証した。この山はあくまで春の情景として描かれているが、その一方で風景は一見自然に見えるものの実際は観念的な表現に終始していることを明らかにした。邸宅側の自然描写も含めて本図の画面中最大のスペースをとる風景描写には複雑な構想が秘められている。 これらの新たな理解を元に、多数の絵巻や仏画など関連作例との比較検討を行った上で、本図が13世紀末に特定の皇族の一種の肖像画として描かれたものであることを提案し、知恩院や浄土宗の文脈とは関わらない環境で制作されたこともあわせて論証した。
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