2011 Fiscal Year Research-status Report
空間調整術としてのアート:ネオ・プレモダニズムの系譜学
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23520117
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
外山 紀久子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (80253128)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 美学 / 身体文化論 / 舞踊論 / 芸能史 / 現代アート |
Research Abstract |
平成23年度は前年度までのふたつの科学研究費補助金による研究(「行」としてのアートの可能性と再生産的労働の美学、「生活場所(ビオトープ)」の美学)をより発展的に深化させ、次年度以降の本研究の基盤を固めることを目指した。 とりわけポストモダンダンスのなかの「ネオ・プレモダン」的傾向を先導し代表する存在であるAnna Halprin、および、彼女の系譜を引き継ぎ、舞踊が身体感受性の開発を軸として「生の技術」へと展開するsomaticsの実例を中心に、北カリフォルニア(サンフランシスコ、ケントフィールド、シーランチ)での現地調査やワークショップへの参加型調査を実施し、文献資料や映像資料の分析的研究によっては得ることのできない知見を与えられたことは、本研究にとって決定的に重要なものであった。舞踊学会大会を期に同ワークショップの主宰者Jamie McHughを日本に招聘し、彩の国さいたま芸術劇場や埼玉大学他での特別講演・ワークショップ・シンポジウムを企画実施する過程で、ポストモダンダンスやダンス・セラピーの主要な研究者の多くと研究ネットワークを更新し拡大することができた。身体と環境世界を連続体としてとらえる視点に関しても、コミュニティ・ダンスから始って地球規模での「場の浄化」を試みるHalprinらによる現在進行形のプロジェクト(Planetary Dance)や、身体と自然の相互作用を重視するeco somaticsの思想を通して考察を行った。 美学会例会でのHalprinについての研究発表、ポストモダンダンスの歴史研究についての著述、「掃除」の身体/空間調整術の観点から現代アートを解釈した論考等によって、研究成果の一部を公にすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地調査やサークショップ参加調査、内外の研究者との研究交流、学会・出版等での成果発表といった点では、当初の計画を達成することができ、研究の方法論や視点の深化に関しては特に意味のある進展があった。多岐に及ぶ関連領域の文献資料収集も概ね順調に行うことができた。他方で、当初予定していたアーカイヴ調査は十分に行う時間がなく、今後の課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は、当初の計画に大筋では準拠しつつ、拡散しがちな問題の輪郭をよりはっきりと浮かび上がらせることを目指して、対象の取捨選択を随時行う。特にポストモダンダンスや現代アートの事例研究についてはより焦点をしぼった調査研究を計画し直す必要がある。ミュージアムやアーカイヴでの調査とともに、ワークショップ等の参加調査研究を継続することの必要性を強く感じた(テーマが身体論をコアに据えた空間経験論であるため、自分の身体で経験すること、実感的理解を外しては成り立たない、という単純な事実に改めて気づかされた)。長期の海外渡航調査は難しいが、可能な範囲で現地調査のなかに滞在参加型調査を取り込んでいきたい。 平成23年度に公刊した論考(「掃除ポイエーシス」)にその後の研究成果を交えて単著として発表する計画に着手する。同時にダンスのネオ・プレモダニズム関連で、憑依論やシャーマニズム研究も視野に入れた形で身体感覚を重視するポストモダンダンス/武術/行法の具体的な事例を見ていく作業を平行して進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
身体/空間/場の調整に関わる諸技法についていくつかの観点から研究を進め、学会、研究会、シンポジウム、著作によって成果を問う。「芸術と地域」の問題を問う日本学術会議の「芸術と文化環境分科会」および藝術学関連学会連合の主催による公開シンポジウムや「老いと舞踊」のテーマで開催される国際シンポジウム(ベルリン自由大学)に参加予定。とくに後者では、ダンスのネオ・プレモダニズム、芸能の発生史、「穢れ」と非同一性をめぐる諸研究の成果を参照して報告を行い、国際的な舞踊研究のネットワークのなかで本研究の意味を確認する機会とする。同時に国内の研究者との研究交流を進め、シンポジウムないしコロキウムを開催して多様な視点に基づくアプローチを探求する。研究協力者との連携をはかり、「Planetary Dance」の日本での実現可能性についても考えたい。 現地調査やワークショップ参加を継続して行うとともに、Agnes Martinの作品と思想の研究に着手するため、アーカイブ調査とミュージアム調査を日程上可能な範囲で実施する。
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