2011 Fiscal Year Research-status Report
アジア近代美術における「ローカルカラー」と「アイデンティティ」形成
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23520124
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
後小路 雅弘 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (50359931)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 シンガポール / 国際研究者交流 韓国・台湾 / 官設公募美術展 / 美術 / 日本軍政 / 郷土色・地方色 / アイデンティティ |
Research Abstract |
本研究の基本的な課題であるアジア近代美術における「ローカルカラー」と「アイデンティティ」について、シンガポール調査を行い、マレーシア/シンガポールの近代美術史言説を中心的に担ってきたT.K.Sabapathy氏に2日間にわたってインタビューを行い、当地における美術史学の成立について知見を深めた。また国立図書館、国立シンガポール大学美術館、国立公文書館で資料収集を行ったほか、シンガポール美術館、国立シンガポール大学美術館で実作品を調査、またシンガポール国立美術館準備室学芸員Seng Yu Jin氏、美術史研究者Koh Nguang How氏らと意見交換を行った。 福岡市美術館における雑誌資料から戦前、戦中期におけるアジア美術関連資料を収集し、日本側のアジア(とりわけ植民地、占領地)に対する態度、文化政策を考察する資料とした。また福岡市美術館で不足する雑誌について東京国立近代美術館、東京都現代美術館など東京調査で補った。 また、比較材料として、韓国調査と台湾調査を行った。韓国では、サムソン美術館リウムで「コリアン・ラプソディ」展を調査、企画者のイ・ジュン副館長と意見交換したほか、韓国国立現代美術館において朝鮮美術展出品作を調査した。台湾では、台湾美術展の主要作家である陳澄波の回顧展を高雄と台北の両市立美術館で調査し、企画者の林育淳氏と意見交換し、さらに嘉義で陳澄波関係の施設を調査した。 さらに3月には、上述のイ・ジュン副館長と美術史研究者金正善氏を招いて、朝鮮美術展ならびに日本人画家の朝鮮表象について、福岡アジア美術館と共同で研究会を開催した。 これらの活動を通じて本テーマの研究の基礎的な資料を収集し、人的な研究ネットワークを強化することができた。また研究テーマ関連の貴重な作品を実見する機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の平成23年度は、インドネシアとフィリピンを中心に調査研究を進める計画であったが、シンガポール・マレーシアの近代美術史に関わる言説を中心的に担ってきたサバパシー氏とピヤダサ氏のうちピヤダサ氏が亡くなり、高齢のサバパシー氏へのインタビューを優先させるべきと考え、現地調査についてはシンガポールを優先した。幸いサバパシー氏がインタビューを快諾され2日間インタビューを行うことができたのは収穫であった。 福岡アジア美術館ラワンチャイクン寿子学芸員との共同作業で、戦前戦中の美術雑誌の調査を行い、美術領域において、日本がアジアに対して「ローカルカラー」を期待し、それをどのように強制したかについて、具体的な資料を多く得ることができた。このことは、事前の計画では想定していなかったことであり、資料調査の面ではおおいにはかどったといえる。 昨年度は植民地期台湾ローカルカラーの代表的な画家である陳澄波の性格を異にするふたつの回顧展が台北と高雄で同時開催され、それを実見できたし、本年度はソウルで朝鮮美術展のローカルカラーを代表する画家李仁星の回顧展を調査する予定であり、台湾と韓国を比較しながら東南アジアの問題にアプローチすることができる。 福岡アジア美術館と共同で、イ・ジュン氏、金正善氏に加え日本の研究者を招いて研究会ができたことも、収穫であった。本科研のみでは予算的に厳しいところ、海外から2名の研究者を招くことができ、研究ネットワーク形成という点で成果をあげることができた。フィリピン、インドネシアについては、現地調査ができなかったが、これまでの収集資料の分析、考察を進めることができた。 副研究院長の仕事が激務であり、研究成果を十分論文のかたちにする時間がなかなか取れなかったが、3年間の研究計画全体から見れば、おおむね順調といえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、本研究課題であるアジア近代美術における「ローカルカラー(郷土色・地方色)」の問題がアジア各国の「アイデンティティ」形成にどのように関わっているのかという問題について研究を深めていく。そのため、可能な限り当時の希少な現存作品を実見調査するとともに、当時の言説を新聞雑誌などを調査して収集に努める。とりわけ「ローカルカラー」は植民地(あるいは日本軍の占領下・軍政下)的な状況で半ば為政者によって強制されるものであるが、それがどのようなシステムの中で強制され、一方で作り手の内発的な表現にどのように関わっているかを考察、検証する。現在福岡アジア美術館との共同作業で資料収集とその整理保管を行っているが、引き続きその充実につとめ、データベースの構築を目指す。 また、これも福岡アジア美術館と協力して、本研究課題に関連した研究会を引き続いて開催し、最終年度には国際シンポジウムを開催する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
朝鮮美術展のスター的な画家であり、植民地期のローカルカラーの代表的な存在と目される李仁星の本格的な回顧展が徳寿宮美術館で開催されるのを機に調査を行い、研究者と協議する。 福岡アジア美術館と共同で進めている戦前戦中期美術雑誌の調査を行い、アジアの近現代美術に関する言説を網羅的に収集し、データベース化するため、補助作業者を雇用する。 昨年度積み残したシンガポール・マレーシアの文献資料調査を継続して行い複写資料を収集する。またフィリピン、インドネシアに関する文献調査を現地ならびに日本国内で行い、複写資料を収集する。 戦前戦中期の「ローカルカラー」に関わる一次資料(書籍)を収集するとともに、関連した作品でできる限り実見し、考察を行う。 福岡アジア美術館と協力して、本研究テーマに関する研究会を引き続き行う。
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