2012 Fiscal Year Research-status Report
アジア近代美術における「ローカルカラー」と「アイデンティティ」形成
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23520124
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
後小路 雅弘 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (50359931)
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Keywords | 国際研究者交流 / シンガポール / 東南アジア / 韓国 |
Research Abstract |
本研究の基本的な課題であるアジア近代美術における「ローカルカラー」と「アイデンティティ」について、シンガポール調査を行い、国立図書館で文献を調査するとともに資料収集を行ったほか、シンガポール美術館で実作品を調査、また現在建設準備中のシンガポール国立美術館準備室堀川理沙学芸チーフ、ラサール美術大学セン・ユージン講師、美術史研究者Koh Nguang How氏、オブジェクティフス・フィルムズObjectifs filmsのシャーメイン・トウ氏らと意見交換を行った。また、シンガポールにおける女性現代美術家の草分け的存在として長く活動してきたアマンダ・ヘン氏にインタビューを行った。 日本国内では、国立国会図書館、横浜・日本新聞博物館にて、日本占領期の東南アジアにおける新聞と雑誌(『ジャワ新聞』『ビルマ新聞』『昭南新聞』『写真週報』)を調査し、複写資料を収集した。日本側のアジア(とりわけ植民地、占領地)に対する態度、文化政策を考察する資料とした。日本軍政下のジャワで活躍した小野佐世男の貴重な現地での作品を『小野佐世男―モガ・オン・パレード―』(川崎市岡本太郎美術館)で調査することができた。またカリフォルニア大学アーウィン校バート・ウィンザー・タマキ教授Bert Winther-Tamakiを講師に「通約可能な特徴:インド、メキシコと日本の近代美術」と題した講演会を行い、アジアをはじめ第三世界における近代美術に共通する問題について意見交換することができた。 さらに、比較材料として、ソウルで朝鮮美術展のローカルカラーを代表する画家として高名な李仁星の回顧展を調査し、出身地であるテグを調査した。昨年度は植民地期台湾ローカルカラーの代表的な画家である陳澄波の回顧展を実見し、今回の調査によって東南アジアの問題を、台湾・韓国と比較しながら、考察することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一次資料の収集については、昨年度の美術雑誌に加え、シンガポールと日本国内において、日本占領期の新聞資料を中心に大いに進めることができた。邦字紙『昭南新聞』、華字紙『昭南日報』、英字紙『Syonan Times』(のち『Syonan Shimbun』)を精査した結果、これまでまったく占領期の文化政策が行われていないと思われていたシンガポールとマレーシアにおいて、ほかの占領地と同様に美術公募展覧会が開かれていたことが確認できたことは大きな成果と言える。また、インドネシアにおいては邦字紙『ジャワ新聞』を精査して、インドネシア(ジャワ)における日本軍政の文化政策についてある程度解明することができた。また当初の予定には入っていなかったものの『ビルマ新聞』を精査することができ、これまでまったく不明であったビルマにおける日本軍政における文化政策について一定の知識をえることができた。このような日本軍政の文化政策、とりわけ公募美術展の授賞制度を通して浸透していったと思われる「ローカルカラー」とアイデンティティ形成について考察する材料を得ることができた。 また、日本の植民地下で開催された朝鮮美術展のローカルカラーを代表する画家として高名な李仁星の回顧展を調査し、その出身地であるテグにおける文化サークルを調査した。昨年度は植民地期台湾ローカルカラーの代表的な画家である陳澄波の回顧展を実見し、今回の調査によって東南アジアの問題を、台湾・韓国と比較しながら、考察することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度ということになり、これまで収集した資料を分析し、それに基づいて、アジア近代美術におけるローカルカラーとアイデンティティ形成について考察する。その成果をふまえ、アジア近代美術研究会等の研究会で発表をして、意見交換の機会を設ける。 また、研究成果に基づいて、東南アジアにおける代表的な美術史家としてインドネシア近代美術史の言説を主導してきたジム・スパンカット氏にインタビューを行い、当該研究課題についてスパンカット氏はじめ関係者と意見交換を行う。同時に、インドネシア近代美術作品を可能な限り実見調査する。 福岡アジア美術館で開催される「東アジア─美術の近代」展に合わせて、国際シンポジウムを開催し、日本の植民地・占領地における官設公募美術展を通して要請された「ローカルカラー」がその後のアイデンティティ形成の過程においてどのような役割を果たしたのかについて考察、検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
インドネシア調査を行い、ジム・スパンカット氏とバンドン工科大学の美術関係者にインタビューをして、インドネシア近代美術におけるローカルカラーとアイデンティティ形成の関わりについて意見交換し、考察を深めるとともに、作品の実見調査を行う。調査にあたってはシンガポール国立美術ギャラリー東南アジア班チーフ学芸員の堀川理沙氏と協同で行う。 福岡アジア美術館の協力を得て「東アジア─美術の近代」展に合わせて、韓国、台湾、東京から、パネリストを招聘して国際シンポジウムを開催する。シンポジウム終了後、報告書を作成する。 収集資料の整理、保存作業と報告書の作成に関して、補助作業者を雇用する。
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