2012 Fiscal Year Research-status Report
フランス古典主義の成立に関わるリシュリューの政策と画家プッサンの役割
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23520126
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
望月 典子 慶應義塾大学, 文学部, 講師 (40449020)
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Keywords | ニコラ・プッサン / 17世紀フランス / 古典主義美術 / 古代美術 / リシュリュー枢機卿 / 芸術政策 |
Research Abstract |
本研究は、ローマを拠点に活動していたフランスの画家ニコラ・プッサンが、17世紀フランス「古典主義」美術の成立に果たした具体的な役割を、ルイ13世の宰相リシュリュー枢機卿の芸術政策との関わりから解明することを目的としている。本年度は、1. フランス絶対王政のプロパガンダとして重要な役割を担っていたルーヴル宮大回廊の装飾事業のプッサンへの委嘱、2. リシュリューによる古代美術複製事業とプッサンの関わり、3. ローマに戻った後にプッサンがパリの愛好家に向けて描いた作品群に見る古代美術、という3点について調査・分析を行なった。1については、リシュリューとその片腕であった王立建造物長官スュブレ・ド・ノワイエがプッサンをフランスに招聘する際に行なった交渉、画家のパリでの活動と大回廊の装飾の実態を同時代資料に基いて再考し、リシュリューとスュブレの芸術政策にとって古代美術のフランスへの移入がとりわけ重要であり、優れた古代美術 (複製であれ) をローマからパリへと移入できる知識と人脈を持つ美術家としてプッサンを起用したことを確認した。また、プッサンによる大回廊の装飾プログラム (国王の称揚、装飾は現存せず) と、プッサンの手法 (イタリア・バロックの錯視的な天井画ではなく、穹窿の構造に沿いながら、古代浮彫の複製と物語画のパネルを適切な鑑賞距離に配置する) を検討し、後のフランスの室内装飾への影響を視野に入れた総合的な分析を進めている。2については、1640年と42年にスュブレの従兄弟フレアール兄弟がローマで行なった古代美術の複製事業 (素描、版画、鋳造の型取り) に関する文献資料を精査し、プッサンとの関わりを中心に調査を行なった。3は、1640~50年代に描かれたいくつかの作品について報告した。以上により、フランス「古典主義」美術の本源としての画家の具体的な役割の調査を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年はリシュリュー枢機卿の芸術政策へのプッサンの具体的な関わりとして、主にルーヴル宮大回廊の装飾と、ローマにおける古代美術複製事業についての調査を行なった。ルーヴル宮大回廊の装飾については、これまでの先行研究と、今回の調査結果を基に、後のフランス美術への影響を視野に入れた総合的な分析を進めているところである。本年度はそのための資料収集と基礎固めを行なうことができた。これは次年度も継続する。また、1640年代以降に描かれたプッサンの作品については、フランスの美術愛好家J. ポワンテルのために制作された作品群と旧知の画家J. ステラのための作品を分析し、一部は論文で発表、一部は学会発表および講演で報告を行ない、さらに現在、論文を執筆中である。こうしたプッサンの作品制作は、フレアール兄弟が行なった古代美術複製事業や、画家と親しかったG. A.カニーニとC. エラールによる、フランスに向けた古代美術の素描、および同じくフランスの画家と愛好家に向けたF. ペリエの古代美術版画集の出版とも連携し合っている可能性を見出した。さらに、リシュリューとスュブレの芸術政策における古代美術複製事業は、後のJ.-B. コルベールによるローマのフランス・アカデミーの活動を準備するものであり、ルイ14世の古代美術蒐集、ヴェルサイユ宮装飾につながる。この点については、ヴェルサイユ宮美術館で開催されていた『ヴェルサイユと古代美術』展(2012年11月13日~2013年3月17日開催)での調査を実施し、来年度の計画の一部を進めることができた。以上のことから、研究計画はおおむね予定どおりに、部分的には当初の計画以上に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であり、これまでの進捗状況に応じて調査を継続しつつ最終成果をまとめる。小項目については随時論文で報告する予定であり、現在執筆中である。また、リシュリュー枢機卿の古代美術複製事業の一環として、ローマのルドヴィシコレクション獲得をめぐるリシュリューとJ. マザランの交渉についても調査を行ない、本年度の調査結果を補完する。さらに、本年度、その緒についたフランス王立絵画彫刻アカデミーでの規範としての古代美術の役割について、プッサンとの関係に焦点を合わせて検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費 (直接経費60万円+次年度使用額79,312円) の使用計画としては、最終的な報告書をまとめるにあたり、補足調査を行なうための2週間程度の海外調査費用 (パリ、ローマ) としておよそ38万円、関連書籍の購入と一次資料のコピー入手 (マイクロ資料あるいはデジタルデータでの入手) のための予算として合計およそ14万円(内、約4万円は年度にまたがって既に購入した書籍、文献コピー代)、成果発表のための欧文翻訳・校閲代として10万円、論文掲載用の写真許諾代として5万円、その他通信費に1万円を予定している。
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