2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520131
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 健一 東京大学, 人文社会系研究科, 名誉教授 (80011328)
|
Keywords | 創造・創造性 / 自動詞性 / 手と頭 / 発明・発見 / ひらめき / 集団的創造 / エンジンと制御 |
Research Abstract |
本年度は「創造・創造性」に関する研究に主たる努力を傾注した。きっかけは「オフィス空間の創造性」についての講演を求められたことだった。この切り口から見ることによって、「創造・創造性」が、これまで考えてきたように藝術固有の問題ではなく、特に現代社会においては広く産業活動のなかで重視され、文化を主導する概念となっていることを認識した。そこで未見の文献を渉猟して得た知識を含め、次のような新しい理解を得た。 ①10年来の研究主題である「自動詞性」の論考を完成した。自動詞性とは、制作において、人為を嫌い作物が独りでにできるようなありかたのことで、西洋にもあるが日本においてはこれを理想とする考えが強固な伝統を形成してきた。これまでわたしは、これが自明の創造性であると見てきたが、今回、これを特異な思考法とみなし、さらに創造性を全幅において捉えるうえでの障害になっているものとして、考え方を改めた。 ②自動詞性とは正反対の他動詞的概念は、頭の創造を強調するものだが、これについては、英語の "to create" の言語分析(コリングウッド、グリックマン)に学んだ。そのポイントは、「創造」が「製作」と異なり、ものではなくアイディアの産出にかかわる、ということにある(自動詞性は、手による「もの」の制作を重視する)。 ③手の(あるいは身体的な)創造と頭の創造という基本的区別がある。造形美術は前者、科学や発明は後者の典型である。しかし、手の創造にも頭のはたらきが、頭の創造にも身体の働きが不可欠で、創造は全体として行動と判断の二つの契機によって構成される。そのなかでも、判断の契機が重要で、判断こそが行動の価値を発見し、確定する。真の創造性は、既定の問題への新しい解決法を見つけることではなく、未だ捉えられていない問題を発見することである。 ④創造過程のなかに行動と判断を区別することにより、集団的創造の可能性が確認できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「計画以上」と言えないのは、取り上げるべき概念の多くに着手できていないからである。しかし、この消極面の理由ははっきりしている。本研究は16年前に刊行した『美学辞典』の根本的な増補・改訂を最終的な成果として想定している。当初、重点を「増補」(新しい美学思想の取り込み)に置いていたが、研究を進めるほどに、「改訂」の重要性と、その仕事の奥深さが見えてきている。今回の課題に着手したころから、『辞典』の増補・改訂と並行して、美学史の記述を課題として立ててきているのも、そのことと関連している。個々の主要概念の理解は、歴史的背景のもとで行われなければならないからである。しかも、その「美学史」はこれまで書かれた美学史のように、学説の要約を羅列するだけのものではなく、世界全体の展開と相関的に捉えた、真の意味での歴史としての美学史でなければならない。この構想が『辞典』における基礎概念の見直しと深く連動していることは、言うまでもない。本年度において集中して考えた「創造・創造性」の問題も、文化創造全体の視野をとることによって、藝術概念の展開に関する理解を一新する機縁となっている。課題は解消されるよりも、むしろ拡大している。しかし、そのことによって、研究の質そのものは大きく高まっていると確信している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は平成26年度が最終年度となる。残念ながら、あと1年間で、『美学史』はもちろんのこと、『美学辞典』の増補・改訂も完成させることはできない。それは、上記のように、研究課題が幅と奥行きを増してきたがゆえのことである。今後も、この路線において研究を継続してゆきたい。さしあたり、26年度には、「創造・創造性」の研究を続けるつもりである。昨年秋に脱稿した『論文の書き方』本は、創造性の観点から論文の書き方を論じたもので、このあと最終的な加筆修正を経て、数ヵ月後に刊行される。また、現時点ではまだ計画段階だが、つづけて創造についての単行本を書き上げ、そのうえで『辞典』のこの項目を改訂したいと考えている。方法のうえでは、引き続き、新しい、また未見の文献を渉猟しつつ、諸外国における研究の展開を追い、また未知の文化への接触を心がけたい。
|
Research Products
(6 results)
-
-
-
-
-
-
[Presentation] 風の詩学
Author(s)
Ken-ichi SASAKI
Organizer
特別講演
Place of Presentation
中国社会科学院人文研究所(北京)
Invited