2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520131
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 健一 東京大学, 人文社会系研究科, 名誉教授 (80011328)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 創造性 / 独創性 / 霊感 / ロマン主義 / ヴァレリー / デュシャン / アイディア / スキル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主題は、美学上の諸概念の新位相を捉えることで、この広い視野への注意は継続している(リクールにおける「物語」や解釈学など)。だが研究の主力は、ひき続き「創造性」の問題に集中している。著書の計画をたて、本年度は多くの論考を読み続けてきた。ここでは特に、創造の思想史の展望と、近代から現代へと転換する過渡期を代表する思想として、ヴァレリーの場合を指摘する。 人間の創造性は、西洋近代をリードしてきた思想だが、19世紀半ばに完成形に達する。その要点は藝術の美的性格に排他的な価値を認め、作り手の天才、独創性を強調し、しばしば霊感を語るところにある。ここでも思想のモチーフは古代思想からくみ取られており、構想の内発性とその神性を認めた新プラトン主義、行動主体としてのひとの自立を強調したストア主義、偶然のなかから新秩序が生まれてくると考えたエピクロス主義などが重要な貢献をなした。同時に近代特有の要因として産業と結合した商業活動があり、近代の社会と思想の形成に大きな影響を残した。18世紀には、科学技術のうえでの発明や商業の活動に創造性を認める考えがあったが、19世紀半ばには藝術が創造性を独占するようになる。この展開には2つの原因が考えられる。1つは藝術に高い精神性を認めた美学思想であり、もう1つは産業革命以降、分業と劣悪な労働条件が広がって商工活動が否定的に見られるようになったことである。 19世紀的藝術的創造は、20世紀の概念と衝突する(デュシャンの『泉』=「アイディアの産出」)。この変化は、ヴァレリーのなかに認められる。かれは生涯を通して精神の創造的活動に関心をもち、その解明を志した。一方においてロマン的な天才や霊感を否定しつつ、他方では学習や模倣を重視してスキルの意義を強調した(20世紀的創造性はスキルを否定する)。科学技術の発明発見を考えるとき、知的なスキルが重要な意義をもつ。
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