2013 Fiscal Year Research-status Report
中世キリスト教世界の死生観-オトラント大聖堂の舗床モザイクを中心に
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23520133
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
瀧口 美香 明治大学, 商学部, 准教授 (80409490)
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Keywords | 舗床モザイク / 図像学 / キリスト教美術 / ロマネスク美術 / 西洋美術史 |
Research Abstract |
本研究は、南イタリアのアプリア地方に位置する一港湾都市オトラントの、大聖堂舖床モザイ ク(1163-1165年)をテーマとして、図像解釈学の観点から個々のモティーフを検討するとともに、 舗床モザイク全体が体現するところの神学的メッセージを解読することを目的とする。聖堂の床面全体を覆うモザイクは、キリスト教図像とともに、世俗的なモティーフ(天体、月歴、労働、 狩猟、楽隊、神話上の動物)を含んでいる。聖なる図像を足で踏むことになってしまうために舗床モザイクにキリスト教的なモティーフを配することはまれである。オトラントにおいてもキリスト自身の像は表されず、身廊中央に十字架を示唆する大きな樹木が据えられ、枝葉の間に旧約の物語が配される。聖俗混在する図像群は謎に包まれた部分が多く、容易に解読しうるものではない。 本研究の目的は(1)南翼廊の図像をどう解釈するか、(2)大聖堂各部分がいかに統合され、連続性・一貫性ある全体をつくり出しているのかという2点を解明することによって、舗床モザイクの背後に横たわる中世キリスト教の死生観について知見を得ることである。 初年度は主に、図像解釈のための資料収集を行なった。舗床モザイクに見られる個々のモティーフを同定し、図像の源泉を探り、モティーフ同士の関連と配置の意味、大聖堂各部分のつながりを探った。次年度以降、南翼廊の人物同定、巻物の解読、ダニエル書との関連性、旧約図像と世俗モティーフの組み合わせの意味について考察を重ねてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南翼廊図像全体の源泉について考慮すべき点は、北翼廊・アプシスとの整合性である。アプシスには黙示録註解の図像、北翼廊には最後の審判の図像がそれぞれ配置されている。したがっ て、南翼廊にもまた、終末論的思想を表す図像が配されていると考えることが自然だろう。南翼廊に関するもう一つのヒントは、北翼廊と左右対称に描かれる樹木である。聖書中において、樹木は時に象徴的な意味をになうものとして登場する。ここで注目したいのは、ダニエル書に出てくる大きな木である。ダニエル書の図像は、黙示録注解書の写本挿絵(いわゆるベアトス写本)に多く見られる。そのため、写本挿絵が、オトラント図像解読の鍵となる。身廊のソロモンとセイレーンの組み合わせ、カインとアーサー王の組み合わせについては、聖書の登場人物と世俗文学の登場人物との接点に焦点を当てた。それによって、聖俗のモティーフを個別に検討していく従来のやり方では解明できなかった点(なぜ聖と俗が聖堂において並列に扱われるのか、それによって何を伝えようとしているのか、という点)を明らかにすることができたと考えている。 ビザンティン・モザイク研究については、現存作例に関する情報の網羅的なデータベース化など、近年めざましい研究成果が上げられている。こうしたデータベースに依拠しつつ、初期キリスト教時代の舗床モザイクまで広く視野におさめた上で、ここまで研究課題の推進をはかることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
モザイク技術の展開と伝播について、より広い視野に基づいて考察を行うために、ビザンティン文化圏諸地域において、実地調査を行ってきた。現在渡航の難しいシリアで行った実地調査は、初期キリスト教聖堂の舗床モザイクに関する知見を得るに当たって、大変実り多いものとなった。こうした調査の実績に、昨年度行ったフランス、ワシントン, D. C.での実地調査や資料収集の結果を加えて、本研究の総括を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査の過程において新たに検討すべき資料に行き当たり、研究方法の再検討を行ったため。 引き続き現地での実地調査を行う。
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