2014 Fiscal Year Annual Research Report
中世キリスト教世界の死生観-オトラント大聖堂の舗床モザイクを中心に
Project/Area Number |
23520133
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
瀧口 美香 明治大学, 商学部, 准教授 (80409490)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 舗床モザイク / 図像学 / キリスト教美術 / ロマネスク美術 / 西洋美術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、南イタリアのアプリア地方に位置する一港湾都市オトラントの、大聖堂舖床モザイク(1163-1165年)をテーマとして、図像解釈学の観点から個々のモティーフを検討するとともに、 舗床モザイク全体が体現するところの神学的メッセージを解読することを試みた。聖堂の床面全体を覆うモザイクは、キリスト教図像とともに世俗的なモティーフ(天体、月歴、労働、 狩猟、楽隊、神話上の動物)を含んでいる。聖なる図像を足で踏むことになってしまうために舗床モザイクにキリスト教的なモティーフを配することはまれである。オトラントにおいてもキリストの像は表されず、身廊中央に十字架を示唆する大きな樹木が据えられ、枝葉の間に旧約の物語が配される。聖俗混在する図像群は謎に包まれた部分が多く、容易に解読しうるものではない。そこで本研究では、①南翼廊の図像をどう解釈するか、②大聖堂各部分がいかに統合され、連続性・一貫性ある全体をつくり出しているのかという2点を解明することによって、舗床モザイクの背後に横たわる中世キリスト教の死生観について考察した。 南翼廊図像を解釈する際に考慮すべき点は、北翼廊・アプシスとの整合性である。アプシスには黙示録註解の図像、北翼廊には最後の審判の図像が配置されている。そのため南翼廊にもまた、終末論的思想を表す図像が配されていると筆者は推測した。そこで、南翼廊の樹木を、ダニエル書に記される樹木との関連において解読することを試みた。特に、黙示録注解書の写本挿絵(いわゆるベアトス写本)を検討することで、オトラント図像の解読をすすめた。身廊のソロモンとセイレーンの組み合わせ、カインとアーサー王の組み合わせについては、聖書の登場人物と世俗文学の登場人物との接点に焦点を当て、なぜ聖と俗が聖堂において並列に扱われるのか、それによって何を伝えようとしているのかという点を明らかにした。
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