2011 Fiscal Year Research-status Report
時の視覚化としての星曼荼羅の研究-数理天文学と密教学の融合による絵画-
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23520138
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
松浦 清 大阪工業大学, 知的財産学部, 准教授 (70192333)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 星曼荼羅 / 北斗曼荼羅 / 星宿 / 図像 / 陰陽道 / 宿曜道 |
Research Abstract |
星曼荼羅(北斗曼荼羅)は一般に、方円の二形式に分類され、方形式が東密系、円形式が台密系であると解釈されている。その解釈は、方形式が東密の寛空、円形式が台密の慶円による創案であるとの伝承に基づいている。前者は『玄秘鈔』の、後者は『覚禅鈔』の記述による。しかし、星曼荼羅の構成要素と構成原理は、仏教の教義とは無縁な天文学の基礎知識に基づいており、仏教はその知識を教義に利用しているのであって、星曼荼羅の成立を仏教の教義から理解しようとするのは誤りである。『玄秘鈔』と『覚禅鈔』の記述も注意深く読めば、寛空と慶円を星曼荼羅の創案者と解釈するには無理があることに気づく。彼ら以前に星曼荼羅の原型ともいえる図像が成立していたと解釈する方が、当該記述の文脈を自然かつ合理的に読み取れるからである。星曼荼羅の図像の原型は、夜空の現実の天体配置を把握する際に是非とも必要な「基本的天文モデル」とでも称すべきイラストであろう。数理天文学の基礎知識を身につけている陰陽道や宿曜道の専門家であれば、誰でも容易に描くことが出来たはずの簡単な模式図である。『玄秘鈔』が「内院四隅安十二宮」と記す特殊な天体配置は、「基本的天文モデル」に対する寛空様の特殊性を指摘する記述と解釈することが可能であろうし、また、『覚禅鈔』が「星宿之明鑑」と記すのは、現実の夜空を反映する「基本的天文モデル」の修辞的表現であると解釈することが自然かつ合理的であると判断される。寛空様は古代インドの伝統と中国の北辰信仰が融合した初期密教の産物とみられ、流布本とされる寛助様には陰陽道の影響が濃厚に認められる。また、慶円様の円形式にはホロスコープ占星術の影響があり、そこには釈迦の誕生日についてのイメージが描かれていると推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
星曼荼羅(北斗曼荼羅)の成立をめぐる他の研究者による従来説の問題点については、以前発表した論文の中で指摘している。また、方形式と円形式の成立についての独自の解釈は、これまで個別に発表した論文の中で、それぞれ単独に取り上げて言及してきた。本年度は、それら個別の研究成果を有機的に連携させて、総合的な観点から方円の二形式にわたる星曼荼羅の成立の問題を論文として執筆した。その論文は、平成24年度の刊行の予定である。その論文によって星曼荼羅の成立については、一定の研究成果を示すことになるため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。ただし、これまで継続的に収集している星曼荼羅の写真資料については、未収集の作品があるため、これについては写真撮影の許可が得られるよう、作品所蔵者に許可申請を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
・継続的に収集している星曼荼羅(北斗曼荼羅)の写真資料のうち、未収集作品である京都東寺の星曼荼羅について写真撮影をおこなうとともに、図像の特徴について分析をおこなう。写真はデジタル撮影によるものとし、映像データは、他の写真資料と図像比較が可能となるよう加工し、データベースの充実を図る。・時の視覚化としての星曼荼羅には西洋占星術の重要要素である黄道十二宮が描かれている。その図像は古代地中海世界からルネサンス期を経て、近代までほぼ一定しているが、星曼荼羅の図像とは微妙な差異も指摘できる。天文時計なども含め、星曼荼羅との図像比較をおこなう。・古代インドおよび古代中国の数理天文学と密教学の融合について考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・「実施状況報告書」(収支状況報告書)の「次年度使用額」欄が0円でないのは、平成23年度中に納品可能との連絡を納入業者より得ていた望遠鏡等の光学関連機器が、年度末の段階で納品不能となった旨、納入業者より急遽連絡があり、購入計画に大幅な変更を生じたもので、この光学関連機器については、平成24年度の早い段階で購入できるよう、適切な費目より必要経費を支出する。・物品費(消耗品費)から、デジタルカメラならびに周辺機器等の購入のための経費を支出する。・物品費(消耗品費)から、星曼荼羅関連図書を購入するための経費を支出する。・旅費(国内旅費)から、星曼荼羅ならびに関連資料を調査するための経費を支出する。・旅費(外国経費)から、ヨーロッパあるいはインドに残る黄道十二宮あるいは西洋天文学ないし西洋占星術の関連資料を調査するための経費を支出する。・その他の費目から、デジタル映像を加工するための経費を支出する。
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Research Products
(3 results)