2012 Fiscal Year Research-status Report
時の視覚化としての星曼荼羅の研究-数理天文学と密教学の融合による絵画-
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23520138
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
松浦 清 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (70192333)
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Keywords | 星曼荼羅 / 北斗曼荼羅 / 図像 / 星宿 / 数理天文学 / 占星術 |
Research Abstract |
星曼荼羅(北斗曼荼羅)の構図における二形式すなわち方形式と円形式の構成原理の相違ならびに図像の成立について考察した。方形式の成立を東密の寛空とする『玄秘鈔』の記述と、円形式の成立を台密の慶円とする『覚禅鈔』の記述は、ともに多くの問題を含んでおり、必ずしも事実を正確に記述したものとは解釈できない。星曼荼羅は天文の基本モデルを絵画作品として提示したものであり、その基本モデルに関する知識は寛空や慶円の時代をはるかに遡る古代から人類が受け継いできた知識である。星曼荼羅の構図と構成要素を分析すれば、星曼荼羅は数理天文学の基礎知識を仏教が自らの宗教体系に組み込んで成立したものであることが理解できる。その際の解釈にいくつかのバリエーションがあり、寛空の方形式と慶円の円形式が代表的な二形式として継承されたと考える方が合理的である。仏教が利用した数理天文学の知識は占星術と密接に関連する知識でもあり、星曼荼羅の構図には時間に関わる理念が盛り込まれていると予想される。その理念を視覚化するために用いられたのが、中尊としての一字金輪仏頂尊とそれを取り巻く星宿の関係である。特に、釈迦の誕生日が星曼荼羅の構成原理に反映しているとの仮説を提示した。その仮説は『仏教美術論集2 図像学I-イメージの成立と伝承(密教・垂迹)』(竹林舎、平成24年5月)に「星曼荼羅の構成原理と成立について」として発表した。また、当該研究の主題である“時の視覚化”が星曼荼羅以外の作品ではどのように表現されているかを確認するため、大念佛寺(大阪市)が所蔵する「片袖縁起」を例に比較検討した。「片袖縁起」は近世の作品であるが、天体としての月が描かれており、天文学の基礎知識を援用しなければ作品の制作意図は理解できない。詳細は『軍記物語の窓 第四集』(和泉書院、平成24年12月)に「「片袖縁起」における時の視覚化について」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
星曼荼羅(北斗曼荼羅)の成立に関する先学の諸説を再検討し、独自の観点から「星曼荼羅の構成原理と成立について」というタイトルで自説を発表した(『仏教美術論集2 図像学I-イメージの成立と伝承(密教・垂迹)』、竹林舎、平成24年5月)。また、密教における星宿美術のジャンルを越えて、月を描く近世の絵画作品の表現を分析し、「「片袖縁起」における時の視覚化について」というタイトルで論文を発表した(『軍記物語の窓 第四集』、和泉書院、平成24年12月)。これら二論文は、天体を描く絵画作品の解釈において、数理天文学の知識が不可欠であるとの観点から記述されている。月を描く絵画作品にしばしば認められる文学偏重の情緒的な解釈は、数理天文学への無理解や知識欠如に起因する場合が多い。三日月として解釈する月が、実は二十七日月である例のあまりに多いことは象徴的である。本来の作品の制作意図を正確に読み取るため、“時の視覚化”の表現を冷静に分析する必要がある。そのような意識のもとに執筆された上記二論文は、新たな観点による問題提起として、一定の評価に値すると判断したため。
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Strategy for Future Research Activity |
・継続的に収集している星曼荼羅(北斗曼荼羅)の写真資料のうち、未収集作品である法隆寺(奈良)の円形式の二作品について写真撮影を行うとともに、図像の特徴について分析をおこなう。写真はデジタル撮影によるものとし、映像データは他の写真資料と図像比較が可能となるよう加工し、データベースの充実を図る。 ・時の視覚化としての星曼荼羅には西洋占星術の重要要素である黄道十二宮が描かれている。その図像は古代地中海世界からルネサンス期を経て近代までほぼ一定しているが、星曼荼羅の図像とは微妙な差異も指摘できる。天文時計なども含め、星曼荼羅との図像比較をおこなう。 ・古代インドおよび古代中国の数理天文学と密教学の融合について考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初購入の予定だった星宿観察用双眼鏡の機種選定について見直しをおこない、購入を見送ったため、次年度繰越金が生じた。この双眼鏡については、平成25年度の早い段階で購入できるよう機種を決定し、適切な費目より必要経費を支出する。 ・物品費(消耗品費)から、古天文学関連図書を購入するための経費を支出する。 ・物品費(消耗品費)から、光学機器ならびに関連機器を購入するための経費を支出する。 ・旅費(国内旅費)から、星曼荼羅ならびに関連資料を調査するための経費を支出する。 ・旅費(外国旅費)から、欧米およびインドに残る星宿ならびに占星術関連資料を調査するための経費を支出する。 ・その他の費目から、デジタル映像を加工するための経費を支出する。
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Research Products
(2 results)