2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520139
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
加藤 哲弘 関西学院大学, 文学部, 教授 (60152724)
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Keywords | 美学 / 美術史 / 食文化哲学 / 趣味 / ナザレ派 / ルーモール / ティーク / ドイツ:イタリア |
Research Abstract |
当初の計画で今年度に予定していた課題は次の3点である。 1. 同時代の多くの美食論や食文化哲学のテクストと『料理術の精神』との比較。2. 美食論や食文化哲学の隆盛をもたらした社会的背景の分析。3. カントの『判断力批判』における、味覚や料理術関連の記述の意味づけ。 このうち、1. については、「食文化哲学(Gastrosophie)」という語を初めて使用したフーリエ(Francois M. Ch. Fourier)の「ユートピア社会主義」にもとづく共同体における食文化理論や、ルーモールとイタリアに旅行したロマン主義詩人ティーク(Ludwig Tieck)の風刺童話劇に見られる食事や調理についての描写などに注目しつつ、それらをルーモールの主張と比較し、そこから得られた成果の一部を美学会西部会で発表した。同時に、2.についても、当時のヨーロッパへの植民地食材の流入や、革命後のフランスにおけるレストラン増加などの状況などを、おもに文献などにより調査した。3.については、とくに同時代の、軽佻浮薄な「趣味」論と、それに対するカントやルーモールの批判的な姿勢を、やはり文献分析を中心にして明らかにした。また、当初の計画にはなかった「ナザレ派」について、前倒し支払いにより、必要な文献購入と現地調査を行った。 7月に行ったドイツとイタリアでの調査では、マインツで開催中の「ナザレ派」展を観覧して資料の調査と収集を行い、カッセルとジェノヴァでは、ルーモールが『イタリアへの三つの旅』などで言及している絵画作品や聖堂建築などについて、資料の調査と収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究目的は、おもに料理と食卓の社交哲学(美学)という観点からルーモールの業績を調査し、彼の活動が持つ歴史的、現代的意義を明らかにすることにあった。この点については、学会発表や論文執筆を順調に行うことで、当初の目的は充分に果たすことができた。とくにルーモールと、第一次ローマ滞在の前後に彼が出会った何人かの、いわゆるロマン主義の思想家たちとの交流について考察したことで、今年度は期待以上の成果が得られたと言ってよい。なかでもローマへと共に旅をしたルートヴィヒ・ティークとの関係について、当時の浮薄な「趣味」の流行を痛烈に風刺するティークの戯曲作品などのテクスト分析を通して明らかにできたことは、計画の進展にとって、とくに大きな意味があった。 この他、前年度に取り組んだ「美術史」の観点からの研究についても、5度にわたる彼のイタリア旅行の行程を追跡するなかで、いくつかの重要な補完ができた。また、次年度に予定している「文人」としてのルーモールについての考察についても、地方貴族として当時の彼が置かれていた社会的地位や、貴族としての「公務」をめぐって多くの示唆がすでに得られた。 もちろん一部には、入手できなかった文献があったり、訪問できなかった研究機関や、絵画や版画のコレクションなどがあったりはした。しかし、それは研究計画の全体に影響を与えるほどのものではない。それらについては、今後も引き続き、入手の試みを継続するとともに、もしうまく都合が合えば、次年度以降の資料調査と収集計画のなかに組み込んでいく。 以上のことから、全体としては、研究は、おおむね順調に進展しているということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策に大きな変更はない。 申請時に計画調書に記載した通り、次年度には、ルーモールが「文人」として詩や文学、素描や版画などの領域で発揮した多彩な才能と、それが美学や美術史学に対して持つ関係について調査する。主に焦点を合わせるのは、第一次ローマ滞在時における彼の幅広い交友関係や、美術館や教会、修道院などでの調査実践がもたらした文筆活動についてである。同時に、前年度の課題であった、美術史学の観点からルーモールの業績の意味を解明する作業や、今年度の課題であった美学の観点からの同様の作業についても、次年度は全体を補完するかたちで継続する予定である。美術史学の観点からの検討作業については、とくにローマ滞在時の、おもにヴァティカンにおける作品鑑定修業などが補完的考察を待っている。また、美学の観点からの検討課題として残されているのは、シュレーゲル兄弟やフンボルト兄弟などといった、ティークやリーペンハウゼン兄弟以外の同時代のロマン主義の哲学者や思想家、作家、芸術家たちとルーモールとの相互の影響関係の分析である。さらに、今年度から新たに加わった課題である、ルーモールがローマで交流したナザレ派やロマン主義の画家たちとの関係の考察のために、次年度は展覧会カタログや作品目録などの文献による資料調査や、イタリアやドイツ各地における現地調査などを行う。 なお、最終年度の平成26年度には、それまでに累積されていくことになる、ルーモールについての調査や分析の成果を、翻訳や、ウェブページなどを利用した情報公開により、同じ一つのコンテクストの中で生きた一人の人間の記録として総合的に提示することにしている。そのための準備も、次年度から開始する必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(3 results)