2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520140
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Research Institution | The Museum of Modern Art, Kamakura and Hayama |
Principal Investigator |
長門 佐季 神奈川県立近代美術館, その他部局等, 研究員 (20393077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 由美 神奈川県立近代美術館, その他部局等, 研究員 (50393070)
角田 拓朗 神奈川県立歴史博物館, その他部局等, その他 (80435825)
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Keywords | 日本近代美術 |
Research Abstract |
本研究の二年度目である平成24年度は、新出、既知の二枚の「西周像」について初年度に行なった光学・分析調査の結果、二つの作品には図柄、大きさなど、酷似している点が多く、顔料分析によって各色の組成も近いことが判明したが、使用している画布の種類が異なることから、同時に発注されたとは考えにくく、制作の過程を再検証する必要が生じた。検証に先立ち、「西周像」の発注主である亀井茲明の旧蔵資料について二度にわたって島根県津和野町にある亀井温故館で調査を行なった結果、新たに制作者、高橋由一の息子である柳源吉から亀井茲明に宛てた書簡二通が発見され、そのうちの一通から「西周像」の制作に際して高橋由一が描いた大礼服姿と平服姿の画稿二点が確認された。二通の書簡のうち、画稿の入った明治25年10月24日付の書簡の発見は、「西周像」制作の謎に迫る本研究にとっての大いなる成果であり、この二枚の画稿および書簡の内容から、亀井茲明が由一の息子の源吉でなく高橋由一本人に「西周像」制作を依頼したこと、制作を進めるにあたり二パターンの画稿を提示し、意向を聞いている点など制作の過程がより明確になった。さらに二枚の画稿を描く際に参考として用いられたと思われる西周の肖像写真がそれぞれ確認され、写真と絵画の関係性も一層色濃くなっている。また、本研究を進める過程で亀井茲明撮影の写真帖「大婚二十五年祝典景況之圖」をもとに高橋(柳)源吉が油彩画《大婚二十五年奉祝景況圖》、および水彩画《東京市街景況油絵草稿》を制作していることも明らかになり、高橋親子と亀井の密接な関係が見えてきた。こうした調査に加え、1月から3月にかけて修復を終えた二枚の「西周像」を神奈川県立近代美術館 葉山館において展示公開したほか、3月には東京大学の木下直之教授、亀井茲基氏を招いて、調査の報告と最終年度にむけての研究会を開催し意見交換を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の光学・修復調査をふまえて、二年度目である本年度は、人文調査に力点をおき、二度にわたって津和野にある亀井温古館で調査を行なった。その結果、これまで知られていなかった亀井茲明宛書簡2通と画稿2図が確認された。これは当初、予想していなかった重要な発見であり、研究の歩を大きく進めるものであった。また、修復、調査作業も予定通りに進み、当初次年度に予定していた修復を終えた二枚の「西周像」の公開については、2013年1月から3月まで神奈川県立近代美術館 葉山において展示を行なった。平成25年度には、これまで一部を除く非公開であった太皷谷稲成神社所蔵の「西周肖像画」が津和野町で一般公開されることになり、公開されることにより人々の関心が高まり、高橋由一晩年の秀作として、さらに研究が進められるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である次年度は、これまでの光学・分析などの保存科調査と文献資料などの人文調査によって明らかになった結果をふまえ、二枚の「西周像」についての制作過程と意義を検討する。そのためには同じく高橋由一によって二枚描かれた肖像画《深見速雄像》や《第十一代山田荘左衛門顕善像》との比較も重要と考える。こうした他の作例と比較しながら、未だ解明されていない制作の動機や制作順序、そのほか制作にまつわる人間関係、さらには制作における高橋由一とその息子源吉の関与についてさらに調査をすすめる方針である。また、モデルとなっている西周の側からのアプローチとして、現在、国立国会図書館憲政資料室が保管する未刊行の明治23年以降の「西周日記」を読み下し、その記述から制作時期および経緯に関わる事項を探る予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度となる平成25年度は、上半期は本研究に携わる研究者がそれぞれ調査を継続させつつ、年度末までに研究会修復保存および人文調査の両面から得た研究成果を報告書にまとめ、世に公表していく。
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