2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23520140
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Research Institution | The Museum of Modern Art, Kamakura and Hayama |
Principal Investigator |
長門 佐季 神奈川県立近代美術館, その他部局等, 研究員 (20393077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 由美 神奈川県立近代美術館, その他部局等, 研究員 (50393070)
角田 拓朗 神奈川県立歴史博物館, その他部局等, 研究員 (80435825)
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Keywords | 保存修復 / 光学調査 |
Research Abstract |
明治洋画の開拓者高橋由一による新出と既知の「西周像」について、制作の背景とその意義を探ることを目的に、人文科学と保存科学の専門家による研究会を設け、それぞれの見地から総合的な検証を行った。 本研究の対象である明治の思想家、西周の肖像画が初めて展覧会に出品されたのは、1893年10月に開催された「洋画沿革展覧会」である。同展目録には、筆者「高橋由一翁」、出品人「亀井茲明氏」として「西周氏肖像」と記載されている。由一没年の前年に発表されたこの「西周氏肖像」は、これまで津和野町郷土館が所蔵する《西周像》とされてきたが、近年、もう1点同じ図像の西周の肖像画が同じく津和野町の太皷谷稲成神社に保管されていたことがわかった。 初年度は、これら新出と既知の2点の「西周像」について保存修復および光学調査を行い、二年度目からは、調査結果の分析ならびに資料調査を進めた。光学調査の結果、2点の「西周像」は、絵具層の顔料および各色の組成、下地の処理などにおける類似性から、ほぼ同時期に同じ材料を用いて描かれたものと判断された。また、資料調査においては、国立国会図書館蔵の西周資料に本作の制作に用いられたと考えられる写真数点が確認されるほか、「西周像」の依頼主である旧津和野藩当主亀井茲明の資料を保存する島根県津和野町の亀井温故館から、由一の実子である柳源吉から茲明に宛てた書簡二通および、本作のための画稿二図が発見され、「西周像」の制作に源吉が深く関与していることが明らかになった。洋画排斥の風潮が下火になったとはいえ、病に臥せる由一が置かれた当時の状況は厳しく、洋画の普及のため、その存在感を世に示すには「西周像」が“高橋由一作”である必要があったと考えられる。 最終年度では、上記の調査研究の結果を総合的に考察し、2点の「西周像」はいずれも柳源吉との共同制作である可能性を含みつつ高橋由一作と結論づけた。
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