2011 Fiscal Year Research-status Report
本阿弥光悦筆和歌巻の特徴解明と伝光悦筆和歌巻の真贋鑑定法の確立
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23520151
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森岡 隆 筑波大学, 芸術系, 教授 (70239630)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 本阿弥光悦 / 俵屋宗達 / 和歌巻 / 散らし書き / 三角法構成 / 古書論 / 定家仮名遣い / 一字二音節仮名 |
Research Abstract |
本研究は、俵屋宗達(生没年未詳)との合作を中心としつつ、本阿弥光悦(1558―1637)筆和歌巻を精査し、従来の研究で指摘されてこなかった書の特徴を帰納的に解明するとともに、光悦筆と伝称される一群の和歌巻やその断簡・色紙等について、真贋鑑定の有効な基準を確立することを課題とする。 初年度の平成23年度においては、鶴下絵三十六歌仙和歌巻・鹿下絵新古今集和歌巻・四季草花下絵古今集和歌巻の主要3巻における光悦の書について考察し、「大小太細のコントラスト鮮やかな、大胆自在の散らし書き」といった従来の指摘事項に加え、(1)上の句と下の句の各々を三角形に配した三角法構成の散らし書きで、上の句の行頭が高い原則が看取されること、(2)群鶴の目や鹿の顔を避けるなど下絵に配慮し、また巻末に程よい余白を残すなど、古書論や古筆の故実を踏まえた揮毫と見てよいこと、(3)定家仮名遣いで記されていること、(4)一字二音節仮名の交用、をその具体的な特徴として明らかにした。 すなわち(1)は継色紙、(2)(4)は元永本古今集・巻子本古今集等の故実を踏まえたものとして、光悦の古筆への造詣の深さが窺える。また(2)の顔を避ける作法は、世尊寺家9代経朝(1215―76)の『心底抄』と11代行房(―1337)の『右筆条々』の教えであり、「巻末で料紙が余るのは、能書の恥」と説く藤原教長(1109―80)の『才葉抄』も合わせ、これら古書論の踏襲実践も指摘した。大和延年の『二老略伝』(明和九年=1772年跋)には、「わが庵は都のたつみ鹿ぞすむ」と書いた光悦が和歌に疎いと評された逸話を伝えるが、「浦山しくも」といった上記古筆を踏まえた(4)の表記が誤解された、との解釈も提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主要3巻の精査から光悦の書の特徴を解明し得たが、蓮下絵百人一首和歌巻など、検証・確認すべきものも多い。
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Strategy for Future Research Activity |
東日本大震災の影響もあり、平成22年度までの科研費課題の研究成果報告書の刊行が23年度にずれ込んだため、23年度からの本研究課題が少し停滞したことは否めない。しかし、大正12年(1923)の関東大震災で焼失した残巻57首の蓮下絵百人一首和歌巻のコロタイプ原寸複製を入手できたこともあり、着実な進展を期したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
和歌巻や色紙は原寸大でその全容を把握する必要があり、それらの複製を入手することに努めるとともに、実見調査にも努めたい。また個々の和歌巻に記された仮名の字母と使用頻度調査のための機器も揃える予定である。
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