2012 Fiscal Year Research-status Report
本阿弥光悦筆和歌巻の特徴解明と伝光悦筆和歌巻の真贋鑑定法の確立
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23520151
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森岡 隆 筑波大学, 芸術系, 教授 (70239630)
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Keywords | 本阿弥光悦 / 俵屋宗達 / 和歌巻 / 散らし書き / 三角法構成 / 古書論 / 二音節仮名 / 世尊寺家 |
Research Abstract |
本研究は、俵屋宗達(生没年未詳)との合作を中心としつつ、本阿弥光悦(1558―1637)筆和歌巻を精査し、従来の研究で指摘されてこなかった書の特徴を帰納的に解明するとともに、光悦筆と伝称される一群の和歌巻やその断簡・色紙等について、真贋鑑定の有効な基準を確立することを課題とする。 前年度から継続して、平成24年度も鶴下絵三十六歌仙和歌巻の特徴について、①継色紙と同様、各歌とも上の句と下の句で三角形を二つ並べたような三角法構成で、上の句の行頭が高い原則、また上の句・下の句ともに初行が高く、順次行頭が低くなる傾向が看取されること、②11首目の藤原敏行の歌「秋来ぬと目にはさやかに見えね共風のをとにぞ驚かれぬる」の「の」(濃)の旁の下部の中途で筆を止め、未完のまま次の「をと」を書いたことに象徴されるように、130羽以上の鶴の目を避けた揮毫、③前掲歌の「見えね共」のほか、「おもひそめ劒」「浦山しくも」「まかせたら南」など『万葉集』以降の表記を踏まえた二音節仮名が交用されており、行頭に書かれた「浦山」以外は、すべて行脚や歌末で用いられていることを指摘した。 合わせて②については、藤原行成曽孫の定実(‐1077―1119‐)筆と推定される巻子本古今集・元永本古今集などの作法や、行成を祖とする世尊寺家9代経朝(1215―76)の『心底抄』や11代行房(―1337)の『右筆条々』記載の「人の顔を除きて」書くという古書論を心得ての揮毫であること、また巻末に程よい余白を残しているのも、世尊寺家7代伊経(‐1169―1227?)が藤原教長(1109―80)から授かった書論を記した『才葉抄』の「料紙書き余りて、書かずして帰すは手書の恥辱」を踏まえたものであることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主要3巻の精査は順調に進んだが、関東大震災で57首分の巻子が焼失し、実物も四散した蓮下絵百人一首和歌巻が難物で、ようやく本格調査にかかったところである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年9月末に蓮下絵百人一首和歌巻に関する研究も発表されたことから、すでに入手済みの同和歌巻零本なども踏まえつつ精査し、着実な進展を期したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に機器類を購入するつもりであったが、メーカーがOSを更新した初年度であったため、控えた。次年度は光悦関係の資料はもちろんのこと、それらの調査に必要な機器の充実に努めたい。
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