2015 Fiscal Year Research-status Report
本阿弥光悦筆和歌巻の特徴解明と伝光悦筆和歌巻の真贋鑑定法の確立
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23520151
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森岡 隆 筑波大学, 芸術系, 教授 (70239630)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 本阿弥光悦 / 金銀泥摺下絵 / 和歌巻 / 三角法構成 / 継色紙 / 三色紙 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、本阿弥光悦(1558―1637)筆和歌巻の書の特徴を帰納的に解明するとともに、光悦筆と伝称される一群の和歌巻やその断簡・色紙等について、真贋鑑定の有効な基準を確立することを課題とする。 平成27年度は、版木摺り料紙への揮毫の特徴を探るべく、梅・蔦・竹・藤・雌日芝・蝶を金銀泥摺りした長巻に『新古今和歌集』巻十六巻末の16首と巻十七巻頭4首を揮毫した花卉蝶摺下絵新古今集和歌巻を調査した。定家仮名遣いによるのは他巻と同様だが、各歌とも上の句と下の句で三角形を並置したごとき継色紙以降の三角法構成で上の句の行頭が高く、しかも上の句・下の句ともに初行が高く、順次行頭が低くなる、という特徴がより顕著に見られた。本紙10枚に詞書や作者を省いた歌20首、つまり一紙に2首の配分で書くことができたからこそである。 また、三角法構成の始発と言える継色紙の成立や呼称の時期が定まらぬことから、それらの考究に努めた。年代については10世紀後半、さらに伝称の小野道風(894―966)筆者説がある一方、洗練された散らし書きから院政期と見る説もあることから、上の句・下の句という意識での揮毫は11世紀半ば以降との指摘も踏まえ、11世紀後期と推定した。 色紙名については、管見では明治45年8月刊『書苑』10号が初見であり、石川県の大聖寺前田家に伝来した零本が同39年頃に分割されたことが、継色紙という名称定着の契機となったであろうことと、同色紙を含む「三色紙」なる名数が飯島春敬(1906―96)の昭和14年の著『古筆名葉集解説』に始まるとする新説を提示した。その後も同16年から27年にかけての吉澤義則らの一連の論考いずれも「色紙の三絶」とあるが、29年に飯島が刊行した『日本名筆全集』巻九・色紙集以降、この語が普遍したと結論したものである。 これらいずれも、後述の大阪市立美術館での特別展図録で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本阿弥光悦が和歌を散らし書きする際に用いた三角法構成の原点と推察する継色紙について、11世紀後期の書と推定し、色紙名の起源や同色紙を含む名数「三色紙」の成立経緯についても明らかにすることができたが、それらを総合的に考究したうえで本課題の成果をまとめることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度にできなかった本阿弥光悦筆と伝称される和歌巻や色紙の調査を行い、これまでの資料等を総合して考察し、研究成果として取りまとめる。
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Causes of Carryover |
課題の延長理由として申し出たとおり、本人の多忙と妻の看病・介護により研究課題を遂行することができなかったため、未執行額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本課題遂行のために、調査旅費のほか報告書の作成と印刷費に充当する。
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