2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520152
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
永由 徳夫 群馬大学, 教育学部, 准教授 (30557434)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 書論 / 書道史 |
Research Abstract |
日本の草創期の書論について考察し、日本書道史を再構築することを目的として、研究を進めた。中世の書論の一つ、世尊寺家六代目・藤原伊行著『夜鶴庭訓抄』を根幹に据え、伝存する写本を渉猟して、比較・検討を行った。 平成23年度は、『夜鶴庭訓抄』における中世と近世の写本の相違について考究した。具体的には、中世における最古の写本、世尊寺家七代目・藤原伊経系統の京都・青蓮院蔵本(以下、青蓮院本)、これに次ぐ同八代目・藤原行能系統の宮内庁書陵部蔵本(以下、書陵本)等の翻刻を行い、近世に流布した『群書類従』所収の『夜鶴庭訓抄』との相違を調べた。 その結果、中世の初期写本は、漢字片仮名交じりで書かれ、文体は敬体であるのに対し、近世の流布本は、漢字平仮名交じりで書かれ、常体が用いられていることを改めて確認した。このことについては、表記・表現の変化により、テクストの普遍化・一般化が図られ、写本の流布する契機となったのであろうと考察した。以上の校訂作業に関する成果は、「校本『夜鶴庭訓抄』(二)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』第61巻 2012)で発表した。 また、この校訂作業を通じ、これまで公にされる機会がほとんどなかった天理大学附属天理図書館蔵本(以下、天理本)に着目することになった。この天理本は、まず七代目・伊経系統本を書写した上で、その後、八代目・行能系統本で校訂を行っている珍しい写本である。『夜鶴庭訓抄』の書写の経緯を研究する上で、天理本は変遷過程を窺い知ることのできる、鍵となる一本であることも明らかとなった。この天理本については、「第22回 書学書道史学会大会」(2011年11月12日 大東文化大学)において研究発表を行い、紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、『夜鶴庭訓抄』の校訂作業が、目標とするところまで進み、その成果を「校本『夜鶴庭訓抄』(二)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』第61巻 2012)として発表することができたことが挙げられる。また、校訂作業を行う中で、これまで公にされることがほとんどなかった天理大学附属天理図書館蔵本に着目できたことも、作業を進める上で原動力となった。 第二に、「第22回 書学書道史学会大会」(2011年11月12日 大東文化大学)に参加し、「秘伝としての書論」という標題で研究発表を行ったことで、多くの研究者から有益な示唆や情報が得られたことである。そこでは、日中書論の連関について考察することの重要性、また、書論と自筆遺品との考証の必要性についての教示を受けた。 第三に、大阪市立美術館・京都国立博物館・奈良国立博物館・大和文華館等に出向き、研究上、必要不可欠な資料収集を行えたことである。特集陳列による、さまざまな現存する遺品に接することで、理論による考証の必要性を改めて再確認できた。 以上の三点により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に引き続き、『夜鶴庭訓抄』の中世の初期写本である、青蓮院本および書陵本の翻刻を行う。その際、天理本を有効に活用しながら進めていきたい。天理本がどのような経緯で書写されたのかを研究することで、中世の初期写本の書写状況がよりいっそう明らかになるものと思われる。また、中世から近世にかけての変遷過程が窺える東京大学史料編纂所蔵本(以下、東大本)の翻刻も並行して行いたいと考えている。この東大本は、近世の流布本と同様、その表記は漢字平仮名交じりを基本とするが、中世の初期写本とも一致する語句が用いられ、敬語表現も散見される。中世写本と近世写本の架け橋となるのではないかと期待するものである。 また、学会において示唆を受けた、日中書論の連関についても考察したい。すなわち、日本書論は秘伝書ではないのかという指摘を真摯に受け止めた上で、果たしてその是非および妥当性について、改めて考えていきたい。また、これまでに引き続いて資料収集を行い、遺品と書論との相互作用についても、検証していく所存である。 以上の成果については、研究誌・紀要等で公にしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
いまだ書論・書道史関係図書が十全とはいえない状況であるので、図書の補充を第一に考えている。また、日中の連関を研究していく上で、周辺領域である漢文学関係図書、国文学関係図書、日本史・中国史関係図書を備えていきたい。 また、平成23年度に購入できなかったノートパソコン一式を購入する予定である。これにより、調査・研究における利便性を図りたいと考えている。併せてパソコン関係の消耗品、文具一式を購入したい。 平成23年度に引き続き、学会に参加して情報収集を行う他、各地の博物館・美術館等に出向いて資料収集を行う予定である。平成23年度以上に、積極的に資料収集・情報収集を行いたいと考えており、調査・研究旅費として活用したい。
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