2012 Fiscal Year Research-status Report
海軍軍楽長・吉本光蔵日記の研究―20世紀初頭の日欧間における音楽情報交流
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23520158
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
塚原 康子 東京芸術大学, 音楽学部, 教授 (60202181)
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Keywords | 軍楽隊 / ベルリン音楽院 / 日露戦争 / 日比谷奏楽 |
Research Abstract |
平成24年度は、吉本光蔵のドイツ語日記(1902年1月1日~6月10日)の翻訳を専門家に依頼し、その内容を日本語日記(軍楽手帳に書き込まれたメモのみ)と照合した。ドイツ語日記はベルリン滞在の末期および帰国航海中の日本語日記に印されていない事情をよく伝えており、相互補完的なものであることがわかった。 吉本がベルリン音楽院で体験した「軍楽学生」制度に関連して、吉本帰国後の1903年に、ベルリン音楽院校長のヨアヒム、軍楽指導教授ロスベルク、クラリネット指導教授シューベルトに明治政府から叙勲が行われたことも公文書から確認された。軍楽関係者の留学先への叙勲は、陸軍軍楽隊の古矢弘政のドイツ留学に際しても行われており、軍関係の留学では文部省留学生以上に手厚い国家的支援がなされていたことを窺わせる。 以上の吉本のベルリン留学に関わる新事実については、これに先行する陸軍軍楽隊のパリ音楽院への留学生派遣と合わせて、平成25年3月に東京芸術大学音楽学部で開催された第10回日中音楽比較研究国際学術会議で発表した(同会議論文集に日中両国語で掲載)。また、平成24年10月に東京芸術大学奏楽堂で行われたレクチャー・コンサート「黒船来航と外来音楽」において、幕末明治期の日本の軍楽史を講義した際にも吉本の留学に言及し、コンサートの終曲にベルリン滞在中に彼が作曲したといわれる《君が代行進曲》を取り上げ、この時期に吉本が果たした役割の重要性を一般聴衆にも伝えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
吉本のベルリン留学中に書かれた日本語日記およびドイツ語日記の読解がほぼ終わり、関連する論文をまとめたことにより、ベルリン音楽院で吉本が体験した「軍楽学生」制度が帰国後の海軍軍楽隊の東京音楽学校への依託生制度に影響を与えたことや、滞在中の日本音楽情報の発信状況が具体的に解明されたため。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルリン留学時の日記がほぼ解明できたのに対し、帰国後の日露戦争前後の日記の読解は遅れている。日露戦争に従軍した時の状況や、戦後に始まる日比谷奏楽への関与、平時における横須賀海軍軍楽隊の状況などについて、日記からできるだけ多くの情報を得るべく、最終年度はその読解を軸に作業を進めるとともに、留学時の日記のとりまとめを進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
遺族の意向を確認しながら、帰国後の日記読解とその整理およびベルリン留学時代の日記の翻刻をご取りまとめるために、謝金を使用する。また、関連する参考資料を購入あるいは複写で取り寄せる(物品費、史料複写費を使用)。 学会で研究成果を発表するために旅費を使用する。
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Research Products
(2 results)