2013 Fiscal Year Annual Research Report
性の解放と資本主義-労働力の均質化をめぐる表象文化論的考察
Project/Area Number |
23520166
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
越智 和弘 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (60121381)
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Keywords | 性の思想化 / 超自我の変容 / 脱肉体化 / 不在の美学 / プログラム社会 |
Research Abstract |
研究初年度において、西欧が支配文明になりえた理由を、資本主義を「だれもが参加できる制度」として発展させた事実に見いだしたこと、それを受け次年度においては、性的悦楽への憎悪を動力源に、資本主義をもっとも発展させえた地域において、20世紀後半期に性と女性の解放が要求された事実から、資本主義の発展と性の解放のあいだには、変革への主体性を越えるダイナミズムが働いた可能性が考えられることが解明された。研究最終年度の平成25年度においては、性の解放運動が単なるセックスの解放を唱えただけではなく、性を哲学的に根拠づけようとしたこと起点に、「性の思想化」の内実と、その評価に取り組んだ。 研究の具体的方策としては、性の解放を理論的に根拠づけた哲学者として当時の若者に評価されたマルクーゼの主著『エロスと文明』を取り上げた。この著書が、じつはフロイトの『文化の中の居心地の悪さ』への批判的考察という形態をとっていることは、そもそも本研究が当初からフロイトの超自我論を、全体の縦糸として掲げてきたことを考えると、マルクーゼが、フロイトの超自我論の20世紀的解釈として『エロスと文明』を上梓している事実は、本研究の円環をひとまず閉じるうえで格好の材料をなした。 研究課題を達成するうえで本研究は、現代アートへの着目をいまひとつの特色としてきた。その理由は、ハイデッガーが『芸術作品の根源』で述べているように、言語化しがたい人間の立ち位置を直接心に訴えうるうえで、芸術には他に代えがたい力があるからである。性をめぐる思想と芸術を結びつけるうえで、研究最終年度においては、二つの大きな発見があった。それは、人間から肉体性を奪いプログラムされたもはや制御不能な組織に呑み込んでしまった現代を読み解いた思想家ヴィレム・フルッサーと、抑圧され不在化した肉体をテーマに表現する芸術家レベッカ・ホルンとの出会いである。
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Research Products
(2 results)