2011 Fiscal Year Research-status Report
風景をモチーフとした彫刻表現法の構築―映像とファンタジーの受容からー
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23520177
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
伊東 敏光 広島市立大学, 芸術学部, 教授 (40275425)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 風景彫刻 / 山水表現 |
Research Abstract |
芸術表現の対象として風景は限りなく魅力的なモチーフであるが、古今東西の彫刻作品において、風景を題材としたものはほとんど見当たらない。本研究では、何故風景の彫刻が確立されて来なかったのかを考察しその理由と問題点を明らかにしていくと共に、今日までに芸術表現が獲得して来た様々な表現法を利用し、また新しい造形理論を考案することによって、風景を彫刻表現として成立させる方法を、理論と実践(実験制作)の両面から構築していく。 23年度は1. 日本国内の伝統的風景表現に関する実地調査、2.芸北から出雲地方に伝わる神話や民話の調査、3.絵画における風景表現の検証と立体への応用に付いての考察、をおこなうと共に、作家へのインタビュー及び実験制作をおこなった。1.では京都及び中国地方の庭園の実地調査をおこない、枯山水庭園等の絵画性と彫刻性について分析し考察した。合わせて盆栽、水石等の調査・研究をおこなった。2.では出雲神話を中心に、神話に登場する場所の現地視察を含めた調査をおこなった。3.では水墨画を中心に、中国、韓国、日本の実風景との比較研究をおこない、風景の捉え方と遠近法等の描法に付いて考察した。これらの調査・研究、特に水墨画の空間認識と枯山水庭園の石の配置等から、風景を彫刻表現として成立させるためのいくつかの方法論を見出すことができた。実験制作では、広島近郊の風景に焦点を当て、研究協力者と共に計3点の彫刻作品を制作している(24年7月完成予定)。 23年度の調査研究を進める中で、今後の展開において可能性の高い部分と低い部分が明らかとなったことも一つの成果と言える。神話や民話の研究では推測の要素が多過ぎて風景との関係を実証していくことが大変困難であることが認識出来た。今後の展開への可能性が高いのは1と3及び実験制作であることが分かったため、次年度に向けての重点領域が絞れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、美術における風景表現に関して、広い範囲の調査からはじめ、研究の進展が見込まれる可能性の高い分野に重点を移していく。研究初年度である23年度は、予定通りに、多分野に渡る幅広い調査が出来たと考える。また予想以上に、本研究を進展させるための専門知識や技能を持つ研究者との意見交換が進んだ。その結果、研究の方向性と可能性という面から研究の重点領域を絞ることができた。また、新たに専門分野の協力者を得ることもできた。 以上のことにより本研究を進めるための環境が大きく向上した。さらに本研究の目的である「風景を彫刻表現として成立させる方法を、理論と実践(実験制作)の両面から構築していく。」ことに関して、理論的には可能であるという目処がたった。実験制作によって彫刻作品として成立させるには、まだ多くの問題が残され目処がたったとは言い難いが、研究全体としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究ではまず、「絵画における風景表現の検証と立体への応用に付いての考察」に力点を置く。23年度の研究により、水墨画や絵巻等の絵画の世界観が、風景彫刻における距離表現の問題を解く重要な要素を持っていることが分かって来たため、今後はこの領域の研究を強化し、フォーヴィズム、キュビズム、シュルレアリズム等の20世紀絵画の検証、研究を平行して進めていくこととする。。 枯山水庭園を核とした、盆栽、水石等を含む「日本の伝統的風景表現の調査・研究」は、23年度に引き続き現場に赴いての実地調査を中心におこなう。23年度の調査では、枯山水庭園の絵画性と彫刻性を分類して調査を進めたが、上記の「絵画における風景表現の検証と立体への応用に付いての考察」を進める中で、絵画性と彫刻性の双方に股がる表現の重要性が明らかとなって来たため、「日本の伝統的風景表現の調査・研究」に於いても、いかに庭園や盆栽の持つ絵画性を彫刻に取り入れるかをテーマに調査・研究をおこなっていく。 実験制作では、23年度の研究によって得られた理論的な解釈を基に彫刻制作をおこなうが、実制作でしか得られない偶然性や突然変異的な状況も本研究の可能性に大きく絡んでいるため、出来るだけ多くの作品を制作し多くの作例を得たい。 作家等へのインタビューと研究会に関しては、問題の共有の難しさがあり、また感覚的な話しに成り過ぎる傾向があるため、多少計画を縮小しておこなうこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額¥3,748は物品購入の際の差額によって生じたもので、次年度の文房具類と実験制作用の彫刻材料(消耗品費)として使用する。
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