2012 Fiscal Year Research-status Report
風景をモチーフとした彫刻表現法の構築―映像とファンタジーの受容からー
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23520177
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
伊東 敏光 広島市立大学, 芸術学部, 教授 (40275425)
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Keywords | 風景彫刻 / 山水表現 / 彫刻における距離と空間 / 遠近法 |
Research Abstract |
本研究では、「風景画の傑作は数多く残されているのに、風景を題材にした優れた彫刻が見当たらないのはなぜか」という観点と、「風景をモチーフとした彫刻を制作にするためには、何が必要であるか。どのような方法があるか」という二つの観点から、風景彫刻を成立させるための造形理論とその実践の研究を進めている。 平成23年度の研究によって、当初の研究計画の内で重点を置くべき領域が明確になったのを受け、24年度は、<絵画における風景表現の検証と立体への応用に付いての考察>に力点を置き調査研究をおこなった。具体的には・水墨画の調査、研究。・フォービズム、キュビズム、シュルレアリズム等20世紀絵画の調査、研究。・各時代を通した透視図法及び遠近法の調査、研究。を作品の実見調査と資料によっておこなった。 また実験制作と研究会をおこない、実制作への応用について理論と制作の両面から検証、実験を試みた。具体的には、担当する博士後期課程の学生と非常勤教員及び研究代表者(伊東)の3名が、「広島の風景」をテーマに作品制作をおこなった。また美術史研究者、現代彫刻研究者、学芸員、画家、彫刻家計10名による研究会を開催した。特徴的な研究としては、研究会の際に実験制作した作品12点の展示をおこない、作品の制作過程における様々な可能性について議論を深めることができたことが挙げられる。研究会後には外部者を含むシンポジウムを開催し、約50名の参加者による意見交換もおこなった。 その他、<日本国内の伝統的風景表現に関する実地調査>、<先行研究の調査><作家へのインタビュー>等も平行しておこなった。これら理論と実験制作両面からの研究によって、彫刻による風景表現の方法論(造形理論とその実践)の幾つかが、具体的に成りつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究を踏まえ、本研究の研究目的に対して、直接的な進展が見込まれる分野と、3年間の研究では結果を出すのが難しい分野を区分けして研究を進めていることから、当初の計画で調査対象としていたもので遅れが出ている分野と、計画以上に進んでいる分野が出て来ている。しかし研究の目的に則してみると、研究の進捗状況は良好であり、達成度についても順調であると言える。 遅れの出ている分野としては、<芸北から出雲地方における神話や民話の調査>と<先行研究の調査>が挙げられる。芸北から出雲地方における神話や民話の調査に関しては、23年度に資料に基づいた実地調査(資料と実風景の検証)を数カ所でおこなった結果、神話や民話に影響を与えた実風景が明らかにこの場所であると断定することが困難であるため、確実な成果は得られていない。しかし、この分野では対象となる地域に対馬を加え、数多く残る古文書や遺跡等から江戸期以前の日本人の風景観について調査をおこなっている。その他、先行研究の把握は進んでいるものの、新しい発見や成果はあまり見出せていない。 進展が顕著なのは、<絵画における風景表現の検証と立体への応用に付いての考察>の分野と<実験制作>の分野であるが、その双方を横断する研究成果として、絵画表現として確立されている遠近法やキュビズムの考え方や描法を、直接彫刻に応用出来る可能性を見出したことが挙げられる。具体的には絵画のパース(近い物は大きく、遠い物は小さく描く)ことや、空気遠近法(遠くなるにしたがって色や形がぼやけていく)等を、三次元の空間で利用することにある程度成功した。このことにより今後も絵画表現の調査と研究を進め、それを三次元の彫刻制作に取り入れる実験をおこなうことで、研究目的のなかで最も重要である制作のための方法論が提示できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、研究分野を1、研究が進んでいて成果につながる可能性の高い分野。2、研究は進んでいるが今後の進展が予想出来ない分野。3、研究が遅れている分野。の3つに大別し、研究を進めて行く。3、に付いては[現在までの達成度]で記した様に3年間の研究期間では成果が出し難いと予想できるが、他の分野の研究が進むことによって大きな可能性が出て来ることも考えられるため、<芸北から出雲地方における神話や民話の調査>及び<先行研究の調査>に関して、資料調査を中心に継続しておこなう。また芸北から出雲の調査に比べ、文献資料と実風景の検証が確実におこなえる対馬を調査対象に加えて研究を進める。2、に関しては<日本国内の伝統的風景表現に関する実地調査>、<作家へのインタビュー>等に付いて、引き続き研究を進める。特に伝統的風景表現中の・盆景等の調査では、中国や韓国における同様の事例を加えて調査していく。1、に関しては、これまでにおこなった、パース、空気遠近法、キュビズムの三次元応用に加え、水墨画の画面構成やルネッサンス以前の遠近法等の応用実験をおこなっていく。さらにこの分野に関しては研究の幅を広げて進めて行く事とし、特に水墨画の研究については、作品が制作された時代の自然観、風景概念等を含めて調査していく。実験制作では、古文書や遺跡が数多く残り、資料と実風景の検証が可能な対馬を実験制作の対象にも加え、これまで対象として来た広島と共に風景彫刻の実験制作をおこおなう。 研究を進めるにあたっては、これまでの研究で様々な情報提供をして下さった方々との連携をさらに密にするよう努め、研究目的に叶う範囲で研究計画に無かった部分に関しても情報収集に努める。またこれまでの研究結果を総合的に分析し、まとめていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度研究費に関しては、当初(交付申請時)の計画に従って使用していくが、調査地に対馬市が加わったことに伴って調査旅費が増えることが予想され、設備備品費か謝金からの流用が必要となることも考えられる。 <設備備品費>当初予定の図書購入から、水墨画関係および20世紀美術関係図書が増え、庭園関係図書および美術図書(画集)が減る。 <旅費>研究対象作品の効率的な調査のため、申請時には予定していなかった対馬市での調査、研究を加える。 <謝金等>当初の予定通り。 <その他>通信費が増えるため会議費は使用しない。
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