2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23520178
|
Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
高瀬 澄子 沖縄県立芸術大学, 音楽学部, 准教授 (60304565)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 音楽学 / 日本音楽史 |
Research Abstract |
『管絃音義』とは、文治元年(1185)、北山隠倫凉金撰とされる楽書である。本研究は、伝本の調査を通じて、『管絃音義』の理論と思想の内容を明らかにすることを目的とする。 2011年度は、主に『群書類従』第十九輯(活字翻刻本)に基づき、『古楽書遺珠』(天理大学所蔵本の影印本)を参照しながら、『管絃音義』の図に焦点を絞って研究を行った。研究成果は、2011年10月に第9回中日音楽比較国際学術会議において口頭発表し、2012年3月に論文として公表した。その概要は次の通りである。 『管絃音義』には、「高下輪転図」「返音輪転図」「五行相生図并相尅図」「相生輪転図」と称する四つの図が含まれる。『管絃音義』前半の主要部分は図とその解説から成り、図を理解することは『管絃音義』の理論と思想を明らかにする上で重要である。『管絃音義』の四つの図は、一見したところ、中国音楽史で「旋宮図」と呼ばれる図に似ている。旋宮図とは、大小二つの円に十二律と七声を記し、円を回転させることよって八十四調の体系を示した図を指す。しかし、『管絃音義』の図を旋宮図と比較すると、その理論的な内容はかなり異なり、似て非なるものであることが明らかとなった。主な相違点は、(1)円を回転させることを意図していない、(2)横笛の譜字が用いられている、(3)三分損益法と関係がない、等である。旋宮図の理論的基盤である中国の楽律学は暦学や易学と密接に関連するが、『管絃音義』の図の思想的背景としては、五行思想と仏教が想定される。しかし、『管絃音義』の図がどのような理論と思想に基づいて描かれたかを明らかにするには、『管絃音義』全体に対するさらなる検討が必要であろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、(1)伝本の収集、(2)本文の校合、(3)現代語訳の作成、(4)構造の分析、(5)背景の考察、という手順に沿って行われる。2011年度は、(1)をある程度進め、(3)を完成させる予定であった。しかし、(1)については全く進んでおらず、(3)については一部を達成するに留まっている。 (1)が進んでいない理由は、(3)の進捗状況から見て、伝本を収集するのは時期尚早と判断したためである。(3)が一部に留まっている理由は、内容の解釈を進めるためには、文だけでなく図にも焦点を合わせる必要があり、図を理解するには自ずと(4)と(5)の一部に踏み込む必要があったからである。結果的に、2011年度は、(3)を(4)(5)と部分的に同時進行させることとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2012年度は、(1)伝本の収集、(2)本文の校合、(3)現代語訳の作成を行う。 当初の計画によれば、2012年度は(1)(2)を行う予定であった。しかし、2011年度の達成状況を鑑み、2012年度には(3)を推進させることを最大の目標とする。(2)の前に(3)を進めるのは、本文の校合を行うにはかなりの程度その内容を理解している必要があるからである。(3)の進捗状況に応じて、(1)(2)を進めていきたいと考えている。ただし、当初の計画にも記した通り、(2)は特に困難が予想されるので、2013年度にかかる可能性もある。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由は明白で、伝本の収集を行っていないからである。2012年度の研究費は、伝本を収集するための費用に重点を置きたいと考えている。 『管絃音義』の写本は、現時点では、内閣文庫、宮内庁書陵部、京都大学等、12の機関と個人が所蔵していることが判明している。入手が容易な順に、(1)郵送により複写申し込みが可能な機関、(2)比較的手続きに問題が少ないと考えられる国立の諸機関、(3)私立と地方の諸機関、(4)個人、という順序で収集を行う予定である。2012年度は、(1)(2)を中心に収集し、可能ならば(3)の収集も目指したいと考えている。
|
Research Products
(2 results)