2012 Fiscal Year Research-status Report
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23520218
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西村 聡 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (00131269)
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Keywords | 宝生流能楽 / 和泉流狂言 / 安江神社 / 尾山神社 / 卯辰山 / 泉鏡花 / 井筒 / 近代 |
Research Abstract |
近代宝生流能楽史の地方展開をより詳細・具体的に把握するための基礎資料の収集に大きな進展が見られた。一つには明治41年から大正2年にかけて金沢・安江神社能舞台で行われた同神社能舞台保存会開催の番組がまとまって入手できたことが挙げられる。ちょうど近代能楽史の最隆盛期に当たり、宝生流の能楽が金沢という地方都市でどのように展開したかを番組掲載の催しの規模や演者の名前から知ることができる。また、どう保存会の趣意書も綴じ込まれていて、設立の経緯や変遷をたどるに有益であり、従来より広い視野のもとに近代宝生流能楽史の地方展開を追跡することが可能になった。さらに、同じく入手できた「金沢紳士鑑」、尾山神社昇格記念出版物たる「高徳公事略」「梅薫録」、雑誌『風俗画報』等によっても、明治期後半の宝生流能楽の地方における隆盛を具体的に知ることができ、従来の近代能楽史記述を更新・充実させる資料が揃いつつあることは、本研究にとって大きな収穫といえる。なお、付随して弘化5 年の宝生大夫勧進能の番組や、掛け軸「鳴和の滝」図も入手できた。後者は能「安宅」の詞章の一部が名所化した上で、絵画化されたものであり、地元の絵師の手に成ると推定されるが、こうした絵画化の例は資料を増やすことで、新しい研究課題に発展する可能性もある。このほか、明治維新前後の数年、金沢・卯辰山の開拓に伴い、能楽ゆかりの「井筒」が一時期卯辰山の名所となった経緯や、また泉鏡花の作品との関係で注目される景物を確認するために必要な情報を掲載する『卯辰山開拓録』を入手し、その分析結果を口頭発表し、金沢大学所蔵の大蔵流狂言本の解題と翻刻、和泉流野村万蔵家と大蔵流山本東次郎家との比較などを行い、近代宝生流能楽史の周辺を資料から光を当てる試みを続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安江神社・尾山神社の能楽史記述並びに番組類の収集に進展があった。これらにより、能楽開催の頻度や規模が従来より広い視野で把握できる。また役者名やその活躍ぶりが具体的に知られる。要するに従来の近代宝生流能楽史の地方展開を更新・充実させるに必要な資料整備が進んだ。 また、「鳴和の滝」図など能の作品の詞章を踏まえた名所の定着とその絵画上の展開という新しい研究課題につながる資料の入手ができた。これは是非類例を博捜して、発展させたい課題である。同様に、『卯辰山開拓録』を入手して、様々な分野に波及する意味で、これも新しい研究課題となり得る、明治維新前後の卯辰山開拓と能楽史との関係に資料的に着眼できたこと、分析を開始できたことも、研究が進展したとみなし得る。 さらに、泉鏡花の作品「卵塔場の天女」に取り込まれた観世清廉殴打事件も、その後の同人の北海道旅行を、むしろ近代能楽史の地方展開として再評価すべき点に気づけたこと、明治維新前後の狂言界の動向を台本や家ごとの対比で追跡したこと、などをもって、本研究はおおむね順調に進展していると自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に進展した資料収集をさらに続けて、新しい研究課題として発展させる方向を確実なものとする。そのために番組収集と同時に、「鳴和の滝」図のような絵画化の類例を集めることや、卯辰山開拓と「井筒」、泉鏡花作品との関係、そして宝生流に限らず、能楽諸流の流勢の拡大を北海道進出に着目して、具体的にその跡をたどることを進める。 これらと並行して、従来から少しずつ進めてきた、宝生流寛政版謡本や『両御神事古今御番組』の翻刻作業を継続して行い、基礎資料の整備をより充実させる。また、同じく、宝生九郎知栄やその先代宝生友于を中心とした宝生流能楽史年表の作成も、とくに地方展開を視野に入れて中身を充実させてゆく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
番組や関連資料等の購入等に物品費を使用する。 関連資料の閲覧・複写のために所蔵機関へ調査に行く時の旅費に使用する。 宝生流寛政版謡本や『両御神事古今御番組』の翻刻作業のために研究補助者の謝金を使用する。
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