2012 Fiscal Year Research-status Report
文学と音楽の理論的協同にもとづく近現代日本文学の音楽表象に関する分析と検証
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23520219
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
山本 亮介 東洋大学, 文学部, 准教授 (00339649)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 貴史 信州大学, 教育学部, 准教授 (10362089)
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Keywords | 日本近現代文学 / 文学理論 / 音楽理論 / 虚構理論 / 物語行為 |
Research Abstract |
2012年度は、音楽作品・音楽経験の言語表現に関する諸課題を整理、追究しながら、具体的な小説作品の分析へと展開した。また、音楽芸術における虚構性について、特に〈時間〉の観点から理論的な考察をおこなった。 予備的考察として、文学上の一般的課題における音楽芸術の位置づけをおこない、語りえぬもの(言語表現の不可能性)への志向を要諦として、両者の関係を追究することの意義を打ち出した。加えて、小説や漫画などの虚構作品に描かれた音楽(演奏)表現が、なぜ読者に受容可能であるのかについても、問題を敷衍した。 ここから、言語理論上の音楽事象に対する位置づけを視野に入れつつ、特に演奏者の音楽(演奏)経験および聴取者の音楽(聴取)経験と、それぞれの経験をめぐる〈語り〉(言語による表象=再現)の問題に焦点を当てて考察を深めた。そのうえで、具体的な作品として奥泉光『シューマンの指』を取り上げ、音楽経験の言語表現を課題とする小説作品が、メタミステリの形式をとることの意味を検討した。ロラン・バルトによる音楽論等を参照しながら、音楽における身体性の観点から作品解釈を展開し、メタミステリという小説形態そのものが、言葉で語ることのできない音楽の身体性の〈隠喩〉となっていることを示した。 合わせて、物理的時間と音楽的時間の関係、差異について諸説を踏まえて考察し、(現実世界における)聴取者の音楽経験が、一般的な物語受容などと同じように、フィクションの構成原理に即したものであることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、前年度に引き続き理論的考察を深めるとともに、特に具体的な作品解釈をとおして、本課題が目する研究(文学と音楽における協同理論の構築)の有効性を示すことができた。また、理論的考察における焦点がある程度まで定められたことにより、多岐に渡る音楽表象を整理、総合する観点が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、小説作品における音楽表象ついて、より実際の読書行為の問題と関連づけて検証する。また、小説以外のジャンルへと研究を展開し、音楽を描いたさまざまなフィクションについて取り上げる。後者に関しては、これまでの資料調査を継続・整理しながら、音楽における視覚(像)の問題など、より学際的な観点から検討を加える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
文学領域、音楽領域に関わる和洋文献資料、記述対象となった音源資料に加え、各種メディア作品の収集、および学会・研究会への参加費(旅費)などを中心に使用する。なお、理論的側面での検討が深化したことと、本研究の対象領域に関わる最新の研究が発表され、考察範囲が広まったことから、必要となる資料収集の費用を勘案して研究費の一部を次年度へと繰り越した。次年度に請求する研究費と合わせ、より多様なジャンルの作品資料を収集、考察する。
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