2011 Fiscal Year Research-status Report
1890-1910年代の日米における国家主義と作文教育
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23520223
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
北川 扶生子 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (70304079)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 日本文学 / 日系アメリカ人 / 作文 / 国家主義 / 日本語教育 / 移民 / 自然表象 |
Research Abstract |
当該年度の成果は、以下の4点である。(1)19世紀末から20世紀初頭の世紀転換期、日清・日露という二度の戦争を経て、国民国家体制を整備してゆく日本の国内において、文学の読み手たちが、みずから文章を書いて発表するという営みがどのようなものであったのかという問題を、(1)作文教育の動向(2)作文指導書の発行状況と構成(3)雑誌投稿欄における作文のテーマ、ジャンル、書き手のプロフィール(4)書くことをめぐる規範性とジェンダー(5)自然や季節の表象などの点に着目して調査・考察し、論文として発表した。なお、これらの成果は、単行本の一部としても発表する予定である(北川扶生子『漱石の文法』、水声社、2012年4月刊行予定)。(2)全米日系人博物館(JANM, Japanese American National Museum)において、以下の資料を閲覧し、1920年代までのものを中心に、複写・撮影を行った。(1)Rafu Uwamachi Gakuin Records (2)Shogo Myaida Papers (3)West Adams Christian Church Records (4)Takeshi Ban Papers (3)海外移住資料館において、アメリカ合衆国で発行されていた邦字紙を、文芸欄や投稿欄に注目して閲覧し、複写を行った。(4)カリフォルニア大学ロサンゼルス校において、日系人社会における日本語教育に関する資料の閲覧・収集を行い、研究者から知見の提供を受けた。また、19世紀末から20世紀前半に渡米した日本人に関する基本資料の収集を、日系人コミュニティの動向、現地で発行された邦字新聞の発行状況、日本語教育、文学、芸能などに注目して行った。さらに、南カリフォルニア州県人会、曹洞宗北米両大本山別院禅宗寺などから、資料や知見の提供を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全米日系人博物館においては、数々の貴重な資料を閲覧することができた。たとえば、初期日系人社会における日本語教育の様子を示す作文資料においては、伝統的な自然観や古典文学を学ばせている様子が確認できた。 また、カリフォルニアで発行された最大の邦字紙「新世界」により、移民社会の広がりの様相を把握できた。とくに、読者による投稿文学作品が数多く見いだされ、ジャンル、自然観、文学観等が、同時代の日本国内とどのような異同をはらみながら、現地で発展していったかを知るための、貴重な資料を発見できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、おおむね予定通りの調査を行うことができた。しかしながら、本課題が対象とする1890-1910年代のうち、より早い時期の資料については、いまだ量的に乏しい。 そこで、今後は、より早い時期の資料の発掘に努めたい。そのために、初期の移民が根を下ろしたサンフランシスコやハワイでの調査も行い、資料の充実を期したい。 また、これまでに収集した資料を、検討・整理し、初期アメリカ日系人社会における日本語教育や、日本語文学の様相について、構造的な分析に着手したい。そのために、エスにシティと国民国家と国語・国文学の関係について、より多くの地域における例に知見を広げつつ、分析手法についてもより精密なものになるよう努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度においては、図書や資料の購入および調査旅費等について繰り越しが発生した。これは、本課題に関する先行研究がきわめて乏しく、全米日系人博物館や海外移住資料館において、所蔵資料を閲覧・確認した上でなければ、購入するべきさまざまな図書や資料、調査すべき所蔵先のうち、いずれがもっとも優先的なものかを決定できなかったこと、紙媒体での複写を想定したが撮影許可を与えられて複写費が大幅に軽減できたこと、当初予想よりも航空券が安価に購入できたこと等による。繰り越しにより発生したものも含めた、次年度の研究費の使用計画は、以下のとおりである。(1)旅費:(1)サンフランシスコ大地震以前の、サンフランシスコ日系人社会に関する資料・事跡の発掘のため、サンフランシスコ、サクラメント、ロサンゼルスの図書館・大学・資料館における調査を行う。(2)ハワイにおける日系人社会に関する資料・事跡の発掘のため、ハワイ大学等にて調査を行う。(3)海外移住資料館において、引き続き邦字紙の資料調査を継続する。(2)設備備品費・消耗品費:日系人社会や日本文学に関する図書・資料を購入する。(3)謝金:収集した資料の整理のため、アルバイトを雇用する。(4)その他:資料の複写費等
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Research Products
(2 results)