2011 Fiscal Year Research-status Report
『世説新語補』を事例とした近世日本の明清漢籍受容史の研究
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23520231
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
稲田 篤信 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (20168404)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 世説新語補 / 明清漢籍 / 李卓吾 / 石島筑波 / 那波魯堂 / 上田秋成 / 胆大小心録 / 大田南畝 |
Research Abstract |
本研究は『世説新語補』が近世日本においてどのように受け入れられたかに関する研究であるが、中国本国で明清の間に出版されたもの(明清漢籍)およびわが国の元禄・安永の間に作られた翻刻(和刻本)の伝本の調査研究を基礎研究に位置づけている。両者ともにわが国公私図書館収蔵の伝本調査を基本とするが、諸本の概略を把握するために、海外収蔵の伝本調査も実施している。 本年度調査及び資料収集した文献で特色のあるものは、以下の通りである。 国内の場合。その一は東京都立中央図書館特別買上文庫蜂屋文庫蔵本の服部南郭門の石島筑波注本(転写本)である。その二は、関西大学図書館増田渉文庫蔵の阿波藩儒の那波魯堂注本である。いずれも林九兵衛刊の元禄版本に無数に注釈が書き込まれている。 海外の場合は、中国国家図書館古籍館(文津楼)(北京市)の明万暦十三年張文柱刻本と台湾大学中央図書館(台北市)の李卓吾批点本(明万暦刊焦竑序)の調査を実施した。 本研究は辛辣な同時代人物評で知られる上田秋成『胆大小心録』なども、畸人伝風の人物評判、エピソードという意味で、『世説新語補』(及び古世説)の影響があると考える立場である。この立場から『胆大小心録』に関して、2011年11月4日、台湾大学において行われたシンポジューム「2011年台大日本語文創新國際學術討論會」に参加し、「江戸の学芸と明清漢籍ー松斎・庭鐘・秋成の場合ー」と題して講演を行った。本件を含めて、『胆大小心録』に関して、二本の論文を研究成果として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
和刻本『世説新語補』の底本となった明万暦版李卓吾批点本の性格、また李卓吾本が明清版『世説新語補』諸本の中でどのように位置づけられるかについての考察が、本研究の目的の一つである。今回、海外の調査で披見した焦竑序のある本は、底本となった李卓吾本にはみられないなど、漢籍版本の常ではあるが、『世説新語補』の場合も予想以上に繁雑な事情があることが分かってきた。ただ、李卓吾批点本およびその周辺の諸本については、ある程度の見通しをつけることが出来た。 邦人書入れ本については、石島筑波と那波魯堂の場合について調査を進めて、それぞれ全冊の写真資料を入手することができた。書入れの内容を中心に分析作業を始めている。石島筑波は服部南郭門の奇行直言のエピソードが伝えられている人物である。『世説新語補』に寄せる興味がうかがえて興味深いが、これまでの調査に加えて、今後もう少しこの人物を追跡してみたいと考えている。筑波のほかにも南郭の周辺で『世説新語補』が読まれていた徴証があり、また南郭には同じ中国人物総伝の『新刻蒙求』の著作があるなど、荻生徂徠門流の関心のありかの問題として、筑波一人にとどまらない興味深い問題があることが判明した。 近世文学への影響については、上田秋成『胆大小心録』について論文を発表したほか、大田南畝については、予定通り、官版『孝義録』、『仮名世説』の書誌調査を行った。 なお本年度調査を予定していた明清漢籍・和刻本『世説新語補』の収蔵国内文庫図書館、特に地方機関について、震災の影響で年度当初に一時的に減額配分の措置があったため、本年度は関西地区・東京地区の調査を優先して、次年度に調査を延期したものがある。
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Strategy for Future Research Activity |
『世説新語補』の明清漢籍及び元禄・安永和刻本について、国内外の伝本調査を継続し、資料収集を行う。海外の場合は、中国国家図書館、首都図書館など(いずれも北京市)を予定している。国内の場合は、本年度(23年度)休館中であったお茶の水図書館成簣堂文庫(東京)や予定を延期している金沢市立玉川図書館古愚軒文庫など、『世説新語補』及び古世説の収集に特色のある公私文庫図書館を予定している。 『世説新語補』に関係する近世日本の学者・文人(石島筑波、那波魯堂、山碕允明、服部南郭及びその周辺、尾藤二洲、大田南畝など)について、引き続きその関わりのありかたを考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一、関西大学図書館増田渉文庫蔵那波魯堂注本について、本年度写真撮影を行い、資料を収集した。本件その他の画像データ処理を中心とする作業にノートパソコンおよびプリンターに係わる経費を予定している。二、日本国内、及び海外における調査研究旅費、資料収集経費を予定している。三、近世漢学関連文献の図書の購入を予定している。
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Research Products
(3 results)